ラッキー

 ある日、薄暗い雲が空に浮かんでいた。何気に怪しい雲だったが、ラッキーにとってはこんなことはどうでも良く、いつものように朝食を手っ取り早くすませた。彼は何も感じていなかった。物語の序章を、まさか自分に降り注ぐとは!

 まるで雲が案内しているようにラッキー君の足は軽やかだった、そして、行き着いたところは家近くの公園に設置されているどぶのところだった。物静かの公園だった。いつもと変らぬ静寂だが、変ったこともあった、たとえば、何故か動物達が円を作ってぐるぐると回っている、その中に一匹の七色のスネークが堂々と横たわったていた。冷たい胴体、獰猛な目付き、すべてを飲み込もうとしているようだ。

 ラッキー君は薄々気遣いた。だが、もうおそいのだ、その刹那が永遠に感じた、太陽が地平線から沈んでいくように。だが、けして快感ではない、何しろ、さきのスネークにがっぷりと噛み付かれたから。それでも、痛くは感じない。何でだろう、ラッキー君は暫く悩んだ、何も思い付かない。例のスネークはもうどこにも見当たらない。ラッキーはさきから噛まれているところがぜんぜん腫れていない足を見て安心した。これぐらいなら、病院に行く必要はないと思った。
 
 この時から、彼の血液はじょじょに変色しはじめていたのだった!勿論本人は気付かない。だが鼓動は静かにパクパクと鳴り続ける、静かではあったが、なにかがおかしい。鼓動のペースが速すぎる、彼は上気したように頬がたちまち赤くなった。赤いのは良いんだが、それどころでは済まない、額から数珠のように大粒の汗がぽったぽったと落ちて来た。目の前で一滴が落ちた。

 明らかに普通の汗じゃない、普通の汗は誰もが知っている、無色透明だ!だがその汗は深い緑色だった。鼓動がさらに速くなる、彼の顔全体が真空中に置かれたマシュマロのように膨れ上がった。顔だけでなく、手や足、お腹いや体全体が膨れ上がった。彼はその瞬間ゴム人間になったのだった!ゴム人間になったのも束の間だった。次に彼の体を襲ったのは体がガタガタ震えて縮み込んでいく、塩を覆い被さったナメクジよりもひどく縮んだ。DNAデオキシリボン核酸の二重らせん構造に異変がもうとっくに起こった。

 
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