楽園
騒ぐ心
華はその原稿を持ち帰り編集長に渡した。

「やっぱりいいわね。彼の絵。
華ちゃん、この先生すごいイケメンだったでしょ?」

「えぇ、まぁ。」

「私が何で面接で華ちゃんを選んだかわかる?

この先生の描く女に華ちゃんが似てる気がしたの。

華ちゃんて見かけはたいして色気もないし、
ぱっとしない感じだけど
実はかなりエロティックなのよね…。」

華は翔琉が知り合いだったとはとても言えなくなった。

それにしても編集長は何だかすごく不思議な人だと思った。

自分で自分の事を性の伝道師と呼んだりする変わり者だが
編集長の創るこの本は編集長なりのこだわりがあって
エロの中にもどこか芸術的な感じを大事にしていて
華はそれなりにこの本を気に入っていた。


華はその夜、翔琉のことが気になってなかなか眠れなかった。

それは翔琉も同じであの時過ごした時間は華にも翔琉にも
忘れ難い時間だった。

それでもお互いに連絡はしなかった。

翔琉は華をまた不幸にするような気がしたし、

華は華であんなに情熱的に愛し合う事はもう出来ないほど
あの時の記憶は辛い想い出になっていた。


華は月に一度健太郎と食事をした。

華と健太郎はそれを条件に離婚した。

事故の後遺症がいつ出るかも知れなかったので
華は別れた後も健太郎の事を心配していた。

「変わりない?」

「うん。何ともない。
華はどうだ?
仕事はうまくいってるか?」

「まぁね。」

「しかし驚いたよな。華がエロ本作ってるなんて…」

「その言い方やめてもらえる?」

相変わらず健太郎はデリカシーがないと華は思う。

「男とか出来たりしないのかよ?」

「そんな暇ないよ。
健ちゃんは新しい恋人出来た?」

健太郎は華と別れて二人の女と付き合ったが
どちらも半年も持たなかった。

どの女と付き合っても華を越える女は居ないからだ。

健太郎はまだ華に未練がある。

一緒に暮らしている頃は喧嘩ばかりしていたが
華は一番自分が自分らしく居られて
居心地がいいのだ。

華はそれを馴れ合いと思っているが
健太郎はそうは思ってない。

華と離れて暮らすと華が魅力的に見えたし
こうして逢ってるのは下心が無いワケじゃなかった。

でも華は既に健太郎の事は過去の事だと思ってる。

それでも情は残っていて
健太郎の元気な姿を見るとホッとした。

その日健太郎は珍しく帰りたがらなくて
華は仕方なくお酒に付き合った。

帰りがけに酔った健太郎が突然
「華、泊まってこうよ。」
と華を誘った。

「何それ?」

「たまにはさぁ、昔を思い出したいっていうか…
あそこのホテルに泊まってこう。」

健太郎はキラキラした外観のラブホテルを指差して華の手を引いていく。

「絶対行かない。」

華は健太郎の手を振り払った。

健太郎は華の腕を掴み
「お前は寂しくないのかよ?」
と甘えてくる。

本当は華はその夜、
健太郎の気持ちが分からないワケではなかった。

華は翔琉に会ってから少し…自分が変わった気がしていた。

忘れてた女の部分を思い出したように
切なくて胸が苦しくて眠れない夜が続いた。

その思いを掻き消したかった。

「華、行こうよ。」

健太郎が突然不意をついてキスしてきたから
華はつい流されて
健太郎に手を引かれるまま付いて行った。

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