クールな御曹司と愛され政略結婚
私の冷ややかな怒りを見てとったんだろう、姉が「おやー」と口元に人差し指をあてて、無邪気に首をかしげてみせる。



「もしかして、仲直りしちゃった?」

「そう見えるんなら、そうなんじゃないの」

「なーんだ、つまらん」



やっぱり言動ほど酔ってはいない。

すっといつもの、察しのよさそうな目つきに戻ると、姉はマキシスカートの裾を払いながら立ち上がった。



「てことは、灯は私のものにはならないんだね」

「そう、お姉ちゃんにはあげません」

「灯が望んでも?」



その手に乗るか。

私は玄関先で腕を組み、姉と対峙した。



「望んでも」

「灯はそんなこと望まない、とは言わないのか」

「灯のことは灯に聞いて。私は私の話をするの。灯はあげない」



長いまつ毛に縁どられた、黒目がちの瞳が細められる。



「じゃあ私も私の話をするよ。灯が欲しいな、もとは私のものだしね」



挑発とわかっていても、かっとなった。

いつだってそうやって、人のものだろうがなんだろうが、好きに持っていく。



「私だって欲しいの!」



思わず大きな声になり、こんな深夜に、と思ったけど止まらず。



「ずっと欲しかったの、やっと手に入れたの。絶対に渡さない」



胸の奥のほうから溢れてくるままそう言い放って、ようやく気がついた。

これ、本心だ。

このシンプルなのが、私の本音の全部だ。
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