クールな御曹司と愛され政略結婚
「じゃあ、残念だが保留だ」

「ちょっと、連絡先置いてってよ」

「嫌だよ」

「元気だってことくらい、お母さんたちに伝えてもいい?」

「嫌だ!」



長い髪をひるがえして、ぴゅっとドアの向こうに消えてしまった。

終わってみれば、一瞬の騒ぎ。


鍵を閉め、灯の前にしゃがんで、指で顔のあちこちをこする。

指先が真っ赤に染まるくらいやられている。



「なんだったんだ…」

「あれがお姉ちゃんだよ、そういえば」



華やかで奔放で勝手で、不遜で謎。

なにを目的に戻ってきたのかわからないけれど、またすぐ現れる気がする。

こんなところにまで、とあきれながら、鎖骨の口紅を拭った。

灯のガードも緩いんじゃないのか。



「眠い…」

「そういえば、今何時?」

「俺が帰ってきた時点で、4時前」

「そんな時間!」



深夜というより、もう早朝だ。



「ベッド行こう」

「俺、今日、午後から行くから起こさないでくれ」



言いながら寝てしまいそうなのを支えて寝室に戻ると、横になるなり灯は寝息を立てはじめた。

眠気をこらえて、しばらく寝顔を眺めていた。


私のこと好き?

好きだよね。

どのくらい好き?

答えようがないよね。


そっと頬にキスをすると、腕が動いて、私を抱き寄せる。

もう少し考えたいことがあったのだけれど、睡魔に負け、私も眠りに落ちた。


この後に起こる騒動なんて、想像もせずに。


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