クールな御曹司と愛され政略結婚
「灯くん、例の制作会社に悩まされてるんだって?」

「ゼロのこと? まさに今悩んでるところだよ」

「ああいう会社、たまに出てくるんだよな。勢いがある間は敵なしだろう」



父の称賛に、ただでさえおもしろくない気分だった灯はますますふてくされ、ソファで脚を組んですねた声を出す。



「笑いごとじゃないよ、せっかくおじさんのとことの取引再開で仕事のルート増えたのに、この調子でゼロにやられてたら、帳消しだ」

「ビーコンも設立当時はヒールだったよ、同業者には脅威だっただろうな」



父は灯のお父さんと同じく長身で、比べなくてもだいぶふっくらして幅がある。

人によっては貫禄と評してくれる範囲にとどまっているので、私も母もうるさくは言っていないものの、あと少し増えたら食事制限をすると母は決めている。

父が懐かしそうに言うと、灯のお父さんも微笑んだ。


それを言われてしまうと、灯も文句ばかり垂れているわけにはいかず、ぶすっとして口を閉じる。

そんな息子に対し、社長が声をかけた。



「いつの世も、追われる立場のほうがきついもんだ」

「俺に追われてる身からの言葉か?」

「追ってる、誰が? 遠くて見えないわ、すまんな」



わざとらしく遠方を眺めるふりをされた灯は、「くっそ」と口の中で毒づき、耳の先を赤くする。



「ゼロの代表と知り合いなんだろ。おもしろそうな奴なら、今度会わせろ」

「あ、僕も僕も」

「ゴルフできるかな、そいつ」

「セミプロクラスのあっくんの洗礼、受けさせちゃう?」

「受けさせちゃうー?」



ノリが木場くんと同じだな。

灯はうんざりとため息をつき「わかったよ」ともはや聞いてもいないふたりに、一応約束をしていた。
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