クールな御曹司と愛され政略結婚
頭をなでたら、一瞬覚醒したようで、「ん」と灯が身体を起こした。

眠そうに眉間のあたりを揉んで、今度はヘッドレストに頭を預ける。

私に寄りかかってくれてよかったのに、と残念に思いながら、かろうじて目だけは開けているという雰囲気の横顔に話しかけた。



「かっこよかったよ」



走り回って、頭を下げて、がむしゃらな灯、かっこよかった。

窓枠に肘をついていた灯が、ふとこちらを見た。



「ゼロになんか行くな」



まっすぐに私を見つめる瞳。

眠気を少しだけ残して、でも熱く語りかけてくる。



「俺のそばにいろよ」



静かなその声は、灯らしい自信も、こちらを揺さぶるような不遜さもなくて、全部そぎ落とした、裸の本音の響きがした。



「それ、命令?」



にっと笑って問い返してやると、灯が苦笑する。

眠たげにほてった手が、シートの上で私の手を握った。

照れくさそうに笑って、私の反応を横目で探る。



「プロポーズ」



そう来るか。

握られた手をもぞもぞと動かして、指を絡めた。

窓の外に向けられてしまった顔を眺めながら、にやにやするのを止められない。

ねえ灯、私、幸せだよ。



「仕方ないなあ」



恩着せがましく言う私に、灯は吹き出して。

家に着くまでずっと、私の手を強く握っていてくれた。

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