クールな御曹司と愛され政略結婚
ということは、今後いよいよゼロが、どんな局面においても競合として現れうるということだ。

その恐ろしさを思ってか、灯の背中が緊張するのがわかった。



「まあ、あんな薄情なスタッフ、社内に置いといても信用できないじゃん、排出できてよかったんじゃないの」

「お前が言うか」

「うちはああいうのウェルカムだからね。金で動く奴は、金さえ払っとけば忠誠を誓う。そういう奴のほうが使いやすいときもあるんだよ」

「跳梁跋扈だな、お前んとこは」

「悪役っぽくて、かっこいいでしょ?」



どう? と無邪気に両手を広げてみせる先輩に、灯はあきれたため息をつくと、突然がくりとうなだれて、走った後みたいに膝に手をついて身体を支えた。



「灯、どうしたの!」

「限界…」



慌てて駆け寄ると、ほとんど寝ている。

そうだ、二週間ずっと激務のうえ、この三日間ほどは合計しても4、5時間くらいしか寝ていないのだ、灯は。



「お前がそこまで注ぎ込んだシリーズ、ほんと興味あるよ。タクシー来たよ」

「ありがと、先輩、またね」



先輩が止めてくれたタクシーに灯を乗せながら、運転士さんにマンションの場所を伝える。



「いつでも待ってるよ」



片目をつぶってみせる先輩に、手を振った。

車が走り出すと、灯の頭が私の肩に落ちてくる。

力の抜けきったその様子に、つい笑いがこぼれた。



「お疲れさま、灯」
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