クールな御曹司と愛され政略結婚
私はあいている椅子に座り、ふたりの間に紙資料を置いた。



「これ、今夜から機材搬入できるスタジオ。二か所あるんだけど」

「よく見つけたな」

「費用はどちらも同じくらい。ふたりとも、使ったことあるよね?」



灯と菅原くんが、資料をじっくり眺め情報を吟味する。

二か所あるうちの、近場のほうはスタジオとしての機能がここより若干劣り、もう一方は400キロの移動を必要とする。



「こっちだな」



灯が選んだのは、400キロの移動だった。



「僕もそっちがいいです、コンテ変える必要がないので」

「了解、確定の連絡入れます」



私は再びコーディネーターに電話し、用件を伝える。

その横で菅原くんが、クルーたちに撤収と移動の指示を出した。

床から天井まで真っ白な曲面でつながった、遠近感のなくなるドームスタジオで、途中までセッティングされていた機材たちが、むなしくばらされはじめる。



「いやあ、ほんといろいろありますね、今回のクライアントさん」

「ごめんね、なるべくこっちで吸収するから。撤収はどのくらいかかる?」

「19時には出発できるかなと。それより佐鳥さん灯さん、今日、打ち合わせだったんでしょ?」



スキンヘッドにキャップという、クリエイターらしい姿の菅原くんが、無邪気に両手で私と灯を指さす。

私たちは同時に「まあな」「まあね」とため息をついた。

灯が脚を組むと、くたびれたパイプ椅子が軋む。



「ああいうのって、こう、最初にこっちがオリエンして、あとはその通りにやってもらう、みたいな時間短縮はできないものかな」

「ふたりで準備する時間も式の一部ですよ、って世界なんでしょ」

「まあ、そうなんだろうけど」
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