クールな御曹司と愛され政略結婚
「創現の営業が来てるな」



昼食中のカフェで、ベーグルサンドをかじりながら灯が言った。

ランチはこうして、打ち合わせをしながら一緒に取ることが多い。



「さっそく?」

「アポなしまであったみたいだぜ、受付の子が教えてくれた」



どうやら社内の女子は、灯の前だと自動的にしゃべりだすらしい。

そう、とそっけない相槌になったのを灯は見逃さず、にやりと口の端を上げて「妬くなよ」と毎度おなじみの台詞を吐いた。

その手に乗るか。



「妬いてほしいなら、そう言ったら」

「妬いてほしいよ」



私の手元から、チリソースにまみれたアボカドのかけらがぼろりと落ちた。



「あ!」



白いパンツなのに…!

半泣きであたふたと紙ナプキンを取る私を、隠そうともせず灯が笑う。

動揺したのが今ごろ悔しくなって、唇を噛んだ。


結局また、灯の手に乗ってしまった。

もう、なんなんだろう、私たちの関係って。


ボスとアシスタント、兄と妹、夫と妻、男と女。

どれ一つとっても中途半端で、結局よくわからない。


ひとしきり笑った灯が、アイスコーヒーを飲んで、満足そうに息をつく。



「ま、これで双方にいい取引が増えれば、俺たちも結婚したかいがあったってもんだよな」



パンツを拭くのに集中しているふりをした。
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