クールな御曹司と愛され政略結婚
灯のデスクの上に載っている時計を見た。

0時半。


灯は大手の芸能事務所に社長ともども招かれて、パーティに参加している。

本人の意思に関係なく、灯はこうして"社長の息子"としての役割を果たさなければいけないときがある。

「コネができるからラッキー」なんて言ってはいるものの、本業であるプロデューサーとしてその場に立たせてもらえない屈辱は、察するに余りある。


灯の出張中にこちらで代行しておくタスクを整理していたら、いきなり後ろから抱きすくめられて、悲鳴をあげた。



「はは、すげえ声」

「灯!」



振り向く前からお酒の臭気が漂ってきている。

案の定、灯は一目でわかるほど陽気に酔っていた。



「ただいまくらい言ってよ」

「また小言か」

「ふたりで暮らすうえでのマナーです、いつまでも独り身気分でいないで!」



はいはい、と適当な返事をよこし、鞄を椅子に置く。



「お風呂沸かす?」

「いや、シャワーでいい。ていうか風呂って嫌いなんだけど」



私の冷たい視線に気づいたのか、腕時計を外しながら用心深く言い添える。



「わざわざ溜めてまで入るのがって意味だからな。シャワーは毎日浴びてる」

「わかってるけど」

「別にお前を止める気はないから、好きに長風呂しろよ」

「なんで私が長風呂って知ってるの」

「夜に電話すると8割くらいの確率で風呂入ってるくせに、なに言ってやがる」

「私、お風呂中だなんて言ったことある?」



一気に焦った。

確かに私はお風呂が好きで、平日でも溜めて入るし、朝シャワーを浴びても、それとは別に長々と入浴する。

疲れを取るための儀式みたいなもので、ある程度睡眠を削ってでも入る。
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