クールな御曹司と愛され政略結婚
私と灯は、まだ一緒に暮らしてはいない。

新居は見つけてあるものの、引っ越す時間すらないからだ。


入籍は挙式と同じ日にしようと話している。

ついでに引っ越しもそのあたりでしようと。

三日間のまとまった休みをとっている貴重なタイミングなので、お互い、すべてを一気に片づけてしまいたいのだ。

夢のない話だけど、夢だけじゃ結婚なんて壮大な手続き、きっとできない。


パジャマ代わりの長いTシャツ一枚で、キッチンにコーヒーを淹れに行く。

その途中でデスクのPCを起ち上げる。

コーヒーメーカーが静かになる頃には、見積もりを作るのに必要なデータをそろえていた。


私たちがこんな結婚をするはめになったのには、当然ながら理由がある。

政略結婚という名前のもたらすイメージ通り、親の都合だ。


私の父は、国内でもトップ3に入る広告代理店の取締役をしている。

その昔、会社が大成長したときの立役者である数名の社員のうちのひとりで、社内ではそこそこの発言権を持っている。

灯のお父さんもその数名の中に入っており、かつては私の父同様、出世街道まっしぐらかと思われていた。

それがあるとき、代理店を辞め独立して、映像プロダクションを作ったのだ。

私たちがまだ幼いときの話。


そのプロダクションはみるみる実績をあげ、ミュージッククリップやコマーシャルフィルムにとどまらず、映画やアニメーションなども手掛け、現在では業界では最大手といわれるまでに成長した。

それが今、私と灯が勤めている会社『BEACON(ビーコン)』だ。

灯のお父さんは、今でも社長として采配を振るっている。



『どうなの、灯くんとケンカしてない?』

「してません、お父さんたちじゃあるまいし」



灯に資料を送り終えて、朝食を作りはじめたところに、今度は実家の母から電話がかかってきた。

携帯を耳に挟んで、ゆうべから卵液に漬け込んでおいたフレンチトーストを、たっぷりのバターで焼く。



『お父さんと、あと野々原さんとも話してね、唯子(ゆいこ)たちに新婚旅行をプレゼントしようかなって』

「ほんと? 嬉しい、どこ行ってもいい?」

『いいけど唯子、いつも忙しそうにして、旅行行くひまなんてある?』
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