クールな御曹司と愛され政略結婚
説明しながら、人差し指と中指で挟んだペンで、灯がトントンとノートを叩く。

くせって長年変わらないものなんだな、と昔を思い出しながらそれを見た。


 * * *


『唯(ゆい)、朝から悪い、今大丈夫か』



翌朝、まだ日も昇りきらない頃、ベッドサイドの携帯に起こされて、私は半分寝たまま灯と会話をしていた。



「大丈夫…なに」

『今日、クライアントが部長級も連れてくるって言うんだ。ちょうどいいから昨日の件で上乗せになった費用の話をしたい。さすがにうちが持ち出しする話じゃないからな』

「そうだね、まとめる?」

『頼めるか、概算でいいから見積もりの形にしてくれ』



次第に冴えてきた頭の中で、これからの段取りを考える。

実費は昨日の段階で洗い出してあるから、フォーマットに流し込んでチェックするだけだ。



「1時間で送る。灯、ちゃんと寝たの?」

『寝たよ』



即答なところが怪しいな。

声がかすれているのは、疲れているからなんじゃないの。



「今日、運転して帰ってこないでよ、ちゃんと寝て、帰るのは明日の朝にして」

『お前、口うるさくなったなあ』

「見積もりいらないの?」



灯が小さく笑う。



『頼もしいアシスタントがいてくれて、仕事もプライベートも心強いよ』

「プライベートでは私がボスかと思ってた」



今度こそ灯は声を出して笑い『じゃあな』と言って通話を切った。

一度伸びをしてから、ベッドを出た。

1Kの部屋の、ベランダに出るカーテンを開けると、夜明けの街を見渡せる。

薄く霞がかった遠方に、都心の庁舎のビル群が見える。
< 5 / 191 >

この作品をシェア

pagetop