クールな御曹司と愛され政略結婚
太陽が、空と大地の境界を線状にきらめかせ、姿を消した。



「アクション」



カメラマンの見ているのと同じ画がビジコンに映る。

楽しげとも、さみしげともとれる、女優さんの絶妙な演技。

「カット」という声を聞きもらすほど、私は画面に引き込まれていた。



「すごいですね」



そばで誰かがつぶやいた。

吉岡さんだった。

私と同じように、呆けたような表情で、リプレイ中のモニタを見つめている。



「御社からご要望をいただいたとき、それに応えられる映像を作れるのはこの監督しかいないと、野々原が社外から引っ張ってきて起用したんです」

「なんていうか、美しくて、私…」



青白いモニタの光が、潤んだ目に反射している。

ありがとうございます、と心の中で感謝した。

女優さんは、数々の舞台をこなす、演技力に定評のある人だ。

有名でなくていいからそういう人を、と決めたのも灯だ。



「うん、いい。全カット終了、お疲れさま!」



監督とのチェックを終えた灯が、全体に向かって言った。

「お疲れさまでした!」と全員が、清々しい声を張り上げる。


私はモニタで繰り返し再生されている、最後のテイクを見ながら、にじんできた涙をそっと指で拭った。

写真だったり歌だったり文字だったり、心を揺らされるものは人それぞれ。

私の場合、それはたいてい映像だ。

空気とか音とか、人の鼓動とか、そんなものを全部閉じ込めて、見るたび違うなにかに気づかせてくれる。


ドン、と身体を揺らされて、隣を見上げたら、灯だった。

私を小突いた腕を胸で組んで、もの言いたげに微笑んで、私を見下ろしている。

いいCFができそうだね。

口には出さなかったそのメッセージを、灯は的確に受け取って、撤収の準備を始めたクルーたちに視線を向けたまま、小さくうなずいた。
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