クールな御曹司と愛され政略結婚
「やっぱり海老かな」

「私は決められないなあ」

「なんだこの実のない会話」



いいじゃん、と頬をふくらませた。

こういう他愛もない会話で、お互いを知っていくものじゃないか。

まあ、今さらなにを知るのって気もするけれど。



「おばさんの天ぷらの秘訣、知りたかったんだ。今日こそ盗んじゃお」



しいたけとししとうをかごに入れたところで、突如その手をつかまれる。

びっくりして顔を上げると、灯がなんだか、真面目な顔をしていた。



「俺、別におふくろの味とか、こだわりないからな」

「え?」

「うちに合わせる必要なんてない。お前の好きな味付けでいいよ」



どうやら本気で言ってくれているみたいで、私は少しの間呆然としてから、こらえきれず笑ってしまった。

灯は気を悪くしたらしく「なんだよ」と眉をひそめる。

まずい、笑いが止まらない。

きっと灯が耳にしたことのある、嫁いだ女性の苦労話の中で、それがもっともぴんと来るもので、また自分がなんとかできる領域だと彼なりに考えたのだ。



「ありがと」

「そんなに笑わなくてもいいだろ」

「気を使ってもらって嬉しかったの。でもおばさんは本当に料理上手だから、勉強したいのは本心だよ」

「唯のお母さんだって上手だろ」

「両方のいいところ取って、私、うちの味を作る」



言ってから、妙に恥ずかしい宣言をした気がして、ドキドキしてきた。

いや別に、なにもおかしなことは言っていないんだけれど。

見えないところで脂汗をかいている私を、灯はじろじろと見て、それからかごの中に視線を落とし。



「そうだな」



静かに微笑んで、そう言った。
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