クールな御曹司と愛され政略結婚
灯が申し訳なさそうに自白すると、母があんぐり口を開けた。



「いくつなの、あなたたち!」

「ごめんなさい…」



揃って叱られたのなんて、何年ぶりだろう。

母が客間に戻った後、「なにやってんだよ」と今度は灯にあきれられた。



「脚から力が抜けて…」

「どれだけ弱いんだよ」

「知らないよ」



さっき舐められたところをさする。

自分でさわってもなんともないのに、さっきはもう、わき腹のあたりまで電気が走ったようにしびれて、わけがわからなくなった。



「自分でも知らなかったのか?」

「知らなかったよ」



恥ずかしさを押し隠してリビングに入る。

灯がやけにじろじろ見るので、いたたまれず「なによ」と噛みつくと、またバカにするかと思った灯は予想外に、「いや」と戸惑った様子を見せた。



「言いたいことがあるなら…」

「灯くーん、お風呂入ってってよ」



奥の客間から、浮かれた声が届く。

ソファで灯のお母さんとうちの母が、おやつの用意をしている。



「いや、いいよ」

「うちのお風呂場、新しくしてから入ってないでしょ?」

「そうだけど、それもらったら帰るよ」

「広いのよ、唯子と一緒に入ったら?」

「入らないよ!」



実家、疲れる…。


 * * *


今年の夏休みは、仕事でまともに取れないことがもうわかっているので、このタイミングを夏の帰省として、数日滞在してしまおうと計画していた。

お互いの家を行き来して、親の相手をしたり二家族でパーティのようなことをしたり、それなりに忙しく週末を過ごし、土曜日の夜。

いくらか涼しかったので、二階の自室で冷房を入れず、窓を少し開けて本を読んでいた。
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