【短編集】その玉手箱は食べれません
「気に入りましたか?」
私はその女性に近づいて尋ねた。彼女が見ていた絵は『目の前の幸福』だった。
「わたし、この絵に見惚れていて時間が過ぎてゆくのを忘れてた」
いま思えばその一言で恋に落ちたのかもしれない。
彼女との交際は順調に進み、相手の両親も私のことを画家として夫として評価してくれた。
結婚して3年目までは幸福な日々が続いた。
だが、彼女は突然白血病で倒れてしまった。