思い出す方法を教えてよ
「待って!」

帰り道、後ろから聞き慣れた声がした。ほんの少しの期待を胸に振り返ると、夏樹が息を切らして走ってくるところだった。

「夏樹」
「ごめん、みんなから、僕と君が付き合ってたって聞いて……」

困った顔で夏樹が言う。何か思い出したわけじゃない。夏樹は優しいから、私を傷付けているんじゃないかって気になったんだと思う。
「君」と呼んだのだって、「小池さん」と呼ばれたのを私が拒絶したからだ。夏樹に気を遣わせてしまっている。
本当は「君」だって他人行儀で嫌だけど、夏樹の気持ちを思うと何も言えなかった。夏樹は出会ったばかりの子を名前で呼び捨てにできるようなタイプじゃない。
出会ったばかりの子……自分で思って、自分が傷付く。でも、そうなのだ。夏樹にとって私は初対面同然。付き合ってたなんて聞かされても、実感はわかないだろう。

「この前はごめんね。怒鳴ったりして」
「ううん、僕の方こそ……。なんで忘れちゃったんだろう」

夏樹は肩を落とす。

「夏樹は悪くないよ。忘れようと思って忘れたわけじゃないんだから」

そう、わかってる。夏樹は悪くない。

「話、聞かせてくれる?もしかしたら、思い出せるかもしれない」
「あんまり無理して思い出すのはよくないって、お医者さんが言ってたよ」
「僕が思い出したくてもだめかな?」
「思い出したいの?」
「それはもちろん。アルバムを見てみたんだ。僕と藍と君はいつも一緒にいたんだよね」
「うん」

アルバムを見ても、夏樹は何も思い出せなかった。どうすれば思い出せるんだろう。

「どんな話をすればいい?」

夏樹が聞きたいと思ってくれるなら話そう。夏樹との思い出。
思い出したいと思ってくれるだけで、今は十分だ。私も強くならなきゃいけない。もう夏樹を傷付けることはしたくなかった。
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