恋愛じかけの業務外取引
「堤さん、私帰るね」
「ん……マヤ?」
彼が眩しそうに目を開けた。
フローリングで寝て体が痛むのか、唸りながら起き上がる。
「今日はありがとう。風邪引いちゃうから、ベッドで寝て。鍵は締めて帰るから」
軽く腕を引いて移動を促す。
彼は素直にベッドに腰を下ろした。
「帰るの?」
「うん。片付けも洗濯も終わったし」
彼の腕から手を放すと、今度は彼の手が私の腕を掴む。
ベッドに腰を下ろしている彼が、上目遣いで私を見据える。
「今日も泊まってけよ」
ドクッ……
なにか特別なことを言われたわけではないのに、いかがわしい想像をして胸が余計な反応をする。
「なに言ってんの」
「なにって、要望?」
私をイジったりからかったりするときの顔じゃない。
寝起きだからかもしれないけれど、甘い顔の上目遣いに、誘われているような錯覚を起こす。
「今度こそ間違いが起こるよ。私、今日楽しかったし、嬉しかったから、うっかりその気になっちゃいそうだもん」
腕を引こうとするが、彼は力を込めて放さない。
彼に掴まれている部分が、脈に合わせて大きくリズムを刻み始める。
私が大いに意識をしていることに、彼もちゃんと気づいているはずだ。
「その気になっちまえよ」
腕が、強く引かれた。