恋愛じかけの業務外取引

彼の顔が迫ってきて、反射的に目を閉じた。

一瞬のことで、たぶん避けようがなかった。

避けるつもりもなかったけれど。

彼の柔らかい唇が優しく私の唇に重なる。

呼吸も言葉も、吸い取られるようにピタリと止まる。

その代わり、体のいろんなところから彼への気持ちが放出していく感覚がした。

それにたくさんエネルギーを使ったのか、私はすぐに息苦しくなった。

「ん、は……」

彼の手が私の頬に添えられ、指が優しく撫でる。

顔が近すぎて、彼の表情が見えない。

「マヤ、もっと」

「んう」

今度は強く押し付けられる。

有無を言わさず彼の熱い舌が侵入してきて、私はそれを受け入れる。

ざらりと水気のあるものに撫で上げられると、たまらず鼻にかかった声が出た。

少し応えると驚くほどの快感が走って、私はすぐにその感覚の虜になった。

嬉しくて、愛しくて、幸せで、目頭が熱くなる。

キスってこんなに気持ちいいことだったの?

私は無意識に彼の体に腕を巻き付けていた。

「なんつー顔してんだよ」

変な顔、してたかな。

表情を作る余裕なんてまるでない。

「ごめん。ブスだった?」

「バカ、違うよ。言っただろ。マヤはかわいいよ。今日のマヤは今まででいちばんかわいい」

言って、頬にもキスを落とす。

ああ、これはヤバい。

数分キスに没頭しただけなのに、幸せな気持ちが全身を満たしている。

これが彼にとっては、いつか私で性欲を満たすための布石だと、頭で理解していても。

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