恋愛じかけの業務外取引



午後。

予定時間通りにラブグリ1号店へ入ると、菜摘が満面の笑みで迎えてくれた。

「山名さん、30歳のお誕生日おめでとうございます!」

わざわざ『30歳』を強調したあたりに少しだけ悪意を感じるが、ここは素直に喜んでおくとする。

「ありがとう。菜摘ちゃん、よく覚えてたね」

「やだぁ。山名さん店舗やってないから忘れちゃったんですか? カード会員さまの誕生日は、システムで月ごとに一覧表が出るんですよ」

「ああ、そういえばそうだっけ」

誕生日月の会員さまにはノベルティをプレゼントしているので、一覧表をチェックして数を揃えておく必要がある。

「今日の日付の欄に山名さんの名前があったのを見たってだけです」

「それでも嬉しいよ」

どうやら彼女は毎日誕生日のお客さまをチェックしているらしい。

会計の際にカードを通せば誕生日だとわかる仕組みになっているが、きっと常連のお客さまには自分から声をかけているのだろう。

彼女の店長としての才覚には、やはりいつも関心させられてばかりである。

「ところで、昨日は堤さんと九州まで出張されていたそうですね」

思いがけない話題に、気まずさが一気に込み上げた。

彼女はまだ彼のことで私を責めるつもりなのだろうか。

「そうだけど、なんで菜摘ちゃんが知ってるの?」

「昨日、別の方が配達に来られたので」

「そっか」

菜摘は笑顔のまま続ける。

< 196 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop