恋愛じかけの業務外取引

「堤さん」

「ん……マヤ?」

軽く肩を叩いて呼びかけると、細目を開けた。

眠そうだし起こすのはかわいそうだが、起きてもらわねばならない。

「私、今日はこれで失礼します」

私が出たあと、施錠をしてもらわないと。

「帰んの?」

「うん」

素早くこちらに手が伸びてきて、私の首のあたりで止まる。

「……悪ぃ」

手がスッと引いていく。

どうして謝るの?

「え、なに? 寝ぼけてる?」

「ああ、たぶん」

ビックリした。

そのままベッドに引きずり込まれるかと思った。

バカだ。妄想だ。自意識過剰だ。

さっき体を見てしまったから、ちょっと妄想が膨らんでしまっただけに決まってる。

彼は無駄に心拍数を上げた私から目を逸らし、だるそうに体を起こした。

そして話題を逸らすように言う。

「やべ……コンタクト外してねーのに眠ってた。すでに目がガビガビ」

日曜日に知ったことだが、彼は視力が悪く、ワンデーのコンタクトレンズを使用している。

休みの日はメガネで過ごすことも多いようだが、先日はコンタクトを装着していた。

「今外して捨てる?」

「うん」

慣れた動作でレンズを外し、ゴミ箱へ。

枕の脇に置かれた黒ぶちのメガネをかけると、余計に若く見える。

かわいい甘顔がいっそうマイルドになって、爽やかな中に知性を感じて……。

メガネフェチの女にはたまらないと思う。

私は別に、メガネフェチなんかじゃないけど。

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