恋愛じかけの業務外取引

状況を理解するとどんどん血の気が引いて、酔いが一気に冷めていく。

辺りを見渡すと、どうやらここは沖縄料理屋と駅の間にある公園のベンチのようだ。

堤さんは酔った私を放置せずに介抱してくれていたのだろう。

そんな彼が、痛そうに左頬を押さえている。

私が殴ったのは明白だった。

「堤さん! 大丈夫ですか?」

どうしよう今すぐ冷やさなくちゃ。

バッグの中にハンカチがあったはず。

これをあそこにある水道で濡らして冷やそう。

10月中旬になって、夜は少し冷えるようになった。

きっと水も冷たいはずだ。

私はハンカチを握り、勢いよく立ち上がった。

しかし飲んだ酒がまだ回っているのか、ぐらりと視界が揺れ、体が傾く。

倒れる!

そう思った瞬間、ガシッと力強く腕を掴まれ、私は転倒を免れた。

ホッとしたのも束の間。

「おい」

腹の底に響くほどドスの利いた低い声がして、驚きと恐怖で体が硬直した。

「え……?」

目の前に、頬を腫らした堤さんの甘い顔がある。

なに今の声。この人が出したの?

ニコニコ笑顔がトレードマークの彼が今、険しい顔で私を睨んでいる。

「人の顔殴っといて、逃げるつもりかよ」

タメ口で喋るのも初めて聞いた。

これ、本当に堤さん? まるで別人だ。

「ちっ、違います! ハンカチを濡らして冷やそうと思って」

「その程度で治るかっつーの」

鋭い口調。彼の頬が少しだけ腫れてきている。

「本当にすみません。私、完全に意識飛んでたみたいで……」

「謝って済めば警察はいらねーんだよ。意識がどうとか関係ないね」

警察という言葉が妙に恐ろしく感じる。

自分はたった今、罪を犯した。

そう認識したからだ。

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