恋愛じかけの業務外取引

私はたしか今日、朝からこの彼、堤凛太郎(つつみりんたろう)と、九州のとある県へ出張していた。

彼は私が勤める『株式会社ラブグリーン』に商品を卸している商社、『株式会社イズミ商事』の営業マンだ。

「爽やか」を形にしたような、清潔感満点のザ・好青年。

よく「甘いマスク」なんて表現を耳にするが、この表現がピッタリな甘い系統の顔をしている。

俗にいう『ワンコ系』。

頬や唇がつるんとしており、丸くて垂れがちな目に、キリッとした眉。

彼が微笑めば老若男女が癒しを感じるという。

推定年齢は27歳くらいだろうか。

背はそんなに高くないけれど、バランスのいい体格にスーツがよく似合っていて、髪はいつもふんわりセットされている。

凛太郎という名から、うちの会社では陰で『りんりん』という愛称で呼ばれており、特に女性社員からの人気が高い。

そんな彼が4月の異動を機にうちの担当になって、半年と少し。

とあるメーカーとずっと交渉していた取引が成立へ向かったため、東京に戻って「お祝いに飲みにいきませんか?」と誘われ、二人で食事をしていたのだ。

入ったのは沖縄料理屋。

きっと初めて飲んだ泡盛がいけなかった。

酒には強い方だが、どうやら私には合わなかったらしい。

夢うつつで人を殴ってしまった。

三十路を前にして、人生最大の大失態だ。

< 4 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop