恋愛じかけの業務外取引
自然派洗濯洗剤「ゼー・ヴァッシェン」のための戦いは、11月中旬になってようやく終息を迎えようとしていた。
世界中の付き合いのある企業に声をかけて、予定よりも不十分ではあるが、フェアで売り出せるだけの個数を確約できたのだ。
「斉藤課長。ゼー・ヴァッシェン、なんとか1000確保しました」
1課から転送されてきたメールを見せると、課長は心底ホッとしたようにため息をついた。
「そうか、よかった。オーストラリアがダメだったからどうなるかと思ったけど、どこが譲ってくれたの?」
「ドイツとシンガポールの商社です」
「ドイツ? ゼーってドイツの会社だよね」
「はい。ヨーロッパは競合が多いので人気が集中しなかったみたいです。ドイツはメーカー直販がメジャーですし、発売当初に多く仕入れていた商社が在庫を抱えていました」
「なるほど。それはお互いにラッキーだったね。とにかく確保できてよかった。さすが山名さん。お疲れさま」
「ありがとうございます」
連日連夜1課の人と粘った甲斐があった。
物流管理部に納品されるまでは安心できないけれど、今日からはいつもの時間に帰ることができそうだ。
「あ、ところで山名さん」
自分の席に戻ろうと踵を返した私を、課長が呼び止める。
「はい」
課長は今日の天気を尋ねるような、なんともふわっとしたノリで問いかけてきた。
「りんりんとはうまくいってるの?」