声にできない“アイシテル”
「えっ、山下さん?!」

 驚いて、思わず腰が半分浮く。


「もしかして、桜井さん!?」

 彼も俺の顔を見て、動きが止まった。


 お互い目を見合わせて固まる。


 そんな俺達を見て、所長がまばたきを繰り返す。

「なんだ。
 トオルの知り合いだったのか?」


「あ、はい。
 顔を合わせたことはあります」

 後ろ手で扉を閉めながら、山下さんが所長に答える。

「ほう。
 世界は意外と狭いものだな」

「そうですね」

 苦笑しながら返事をした山下さんは、『失礼します』と言って、ソファーに座った。



「それでは人工声帯の話をしましょうか」

 と、所長が言った所で先ほどの事務員が顔を覗かせる。

 どうやら、所長に電話が入ったようだ。


「私は用があるので、これで失礼します。
 桜井さん、どうぞゆっくりなさってください」

「ありがとうございます」


 会釈を交わした後、所長は出て行った。
< 489 / 558 >

この作品をシェア

pagetop