俺がいなくなった世界
死の宣告



「いてててっ…」
今日も重い頭を持ち上げる。
「あれ…俺何してたんだっけ…」
寝起きで大して動かない頭を使って考える。
昨日俺は病院に行った。この1カ月微熱と頭痛に悩まされていたからだ。どうして1カ月もそのままでいたかと言うと、俺は病院が大嫌いだから。昨日の診察…何て言われたんだっけ…。
思い出せない。…違う。思い出したくないんだ。だって俺、あと1年も生きていられないなんて信じたくないから。




俺は孤児院で育った。ガキの頃の思い出に楽しいものなんて何も無い。俺らの生活には自由が無かったから。俺が育った孤児院は普通の孤児院ではなかったのだ。
俺が育った孤児院…そこは人体実験をしていた。なんの実験なのか、俺達被験者は何も知らない。ただ、俺を病院嫌いにさせたのは間違いなくこの実験である。記憶が消されている事もしばしばあった。一週間分の記憶が飛んでいることもあったし、目が覚めると、身体が傷だらけになってることもあった。1番大きな傷は胸にある手術痕。大人になった今でもくっきり残ってる。孤児院の中で俺と同じ手術痕がある奴は俺の他に4人いた。でも、4人とも死んでしまった。だから、俺も死ぬんだ。幼い頃に受けた謎の手術のせいで…。死んだ4人の崩壊も頭痛から始まった。毎日、「痛い痛い痛い…助けて…苦しい」と、もがいていた。そして4人は壊れて…死んだ。あれから5年と七ヶ月。ついに俺にもその時が来てしまった。その証拠に、医者は俺に命の残り時間は告げたが、病名は言わなかった。俺が診察に行く病院は、孤児院にいる時からずっと変わらない。つまりそういう事なんだ。大人になった今も、昔と同じように常に監視下に置かれているんだ。だから…俺のこの症状に病名なんて無いのかもしれない。

「ハァ…なんで、俺…なのかな…」

ベッドに腰掛けてシャツをめくる。そこにはいつもと同じように1本の長い縫い目がある。そっと縫い目に触れた瞬間、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような激痛が走った。

「グァッあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!ッ」

なんだ…今の…こんな事今までなかった。やっぱり、死ぬんだ俺…。最近、身体に変化が起き始めた。関節が動かなくなるんだ。ピクピク痙攣するみたいになって全く動けない日もある…。

「なんなんだよ…この体は…。」

〝ピーンポーン〟
「ッ!!?」
俺はサッと服を直して立ち上がった。玄関に行き、扉にある覗き穴を見ると、そこには白衣を着た見覚えのある男が立っていた。俺は、ドアを開けずに部屋へ戻った。

「チッ…なんだよ…なんなんだよ…なんで俺なんだよ…」

俺はソファーで体を丸め、声を押し殺して泣いた。俺がまた自由を奪われるのは時間の問題だった。いや、自由な時間などもう残ってなかった。

〝カチッ〟

玄関の鍵が開く音がした。俺は身を固くして息を潜めた。

〝カツ、カツカツカツ…〟

足音はゆっくりと俺に近づき、そして止まった。
『やぁ…久しぶりだね、ØØ⒋番。どうだい?自由な生活は。3年も自由にしてやったんだ。少しは感謝しろよ?まぁそんな事はどうでもいい。ついに君も』


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