黒胡椒もお砂糖も


 だけど両家の両親まで巻き込んでの長い話し合いの結果、結果的には私は離婚を受け入れた。他に好きな人が出来たと言われた子供のいない女。どうしたら離婚を止められただろう。

 実家の玄関先で私と私の両親にすみませんと頭を下げる彼の両親に、一体何が言えただろう。

 だって、人間も動物なのだ。

 私の魅力が、その彼女に負けてしまったってことなのだ。長い間一緒にいた私は、飽きられてしまったのだろう。彼は新しい刺激の方へといってしまった。もうこれ以上、どうしようもなかった。

 そういう意味では誰も悪くなかった。だから親も彼を罵ることも出来ず、淡々と私は、結婚生活を失った。


 悪いことは連鎖する。不幸というのは団体さんでやってくるものだと、30歳の私は身を持って知った。

 次は、勤めていた証券会社では脳無しと有名な上司のミスを私が被るハメになった。

「本当に申し訳ないんだが、田西さん」

 出勤してすぐ、まだ鞄を持ったままで支社長室に呼ばれた私に鎮痛な表情の支社長が言ったのだ。

 専務の息子である私の直属の上司はバカ野郎で、金融会社にあるまじき個人情報の漏洩をしやがったのだ。ただ、彼が持ち出して紛失してしまったその書類には私の判子が押してあった。そう告げられて、一度は真っ青になった私に専務が頭を下げたから驚いた。犯人は自分の息子だとすぐに判ったらしい。

 問い詰めたら白状したけれど、書類におしてあるのは君の判子なんだ、って。


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