黒胡椒もお砂糖も


 あの無駄に美形の男が私にエレベーターの中でかけた呪いはガッツリ私を苦しめた。

 何と、毎晩夢に出てきた。

 黒髪ロン毛の保険営業高田篤志が。

 エンドレスに繰り返される手を握られる感触。そして親指で撫でられて熱を持った手が――――――――

 あの綺麗な微笑がぐるんぐるんと頭の中を回って、それから逃げられない苛立ちからテレビの中のイケメンに文句を言って八つ当たりした。

 それを見た母親が不思議そうに、格好いい男の人が嫌いだなんて変な子ね~と述べていた。

 ふん、整った顔が何だってーのよ!そんなもんに惑わされてはいけないのよ私!そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、高田さんは瞼の裏で微笑むのだ。

 ・・・どんな呪いだよ・・・あの男、私を殺す気か。


 正月の実家から自分の部屋に戻ってきた1月3日、電話で陶子と話しながらカーペットの上に寝転がる。

 陶子には元夫の事務所で働いた暴行も全部話していて、もしかしたら訴えられるかもね、とまで言っていたから彼女はその心配をして電話をくれたのだった。

 だけど、話すのは専ら高田さんについてだった。

『あんたどうして逃げるのよ~!!』

 電話の向こうで陶子がキャンキャン叫んでいる。私はちょっと携帯と耳との距離を離しながら、だらーっと答えた。


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