黒胡椒もお砂糖も
まだ真っ赤なままで睨み返すと、高田さんは静かな声で言う。
「まだ終わってないんですよね?」
くっそー!この敬語が余計にムカつくぜ!私は唇を噛みしめる。余裕気なこの顔に爪を立ててやりたい。バリバリと引っかいて、ヤツが浮かべるはずの不快な表情を見てみたい!
「もういいんです!それ中村さんから借りたものなので、返してください」
「・・・返しておきますよ」
は?何ですと?
ガン見してしまった。彼は微少したままでゆっくりと言い直す。
「俺から返しておきますよ、明日」
一瞬、マトモになった頭で想像した。
会社の廊下かエレベーターホール、第1営業部から中村さんを呼び出して高田さんがマニキュアを返すところ。
その場にいる周りの人は全員間違いなく聞き耳を立てているはずだ。中村さんは可愛らしく頬を染めてうっとりと高田さんを見上げるんだろう。私が呼び出されるなんて、これはもしかして、と彼女が期待を抱いても仕方ない。そしてヤツは言う。
これ、昨日尾崎さんから預かりました―――――――
・・・冗談じゃねえぜ。
恐ろしい想像に全身が震えた。
何故、尾崎さんに貸したこれを高田さんが持ってるの?とは誰でも思うはず。え、あの目立たない尾崎さん、もしかして高田さんと何かあるの?付き合ってるとか?まさかそれはないでしょ。これは絶対、尾崎さんに聞かなきゃ――――――・・・
地獄だ。
オー・マイ・ゴッデス。クッジュー・ヘルプ・ミー、アズナス・ポッシブル!!(神よ、お助け下さい。それも、出来るだけ早く!)