黒胡椒もお砂糖も


 うーん。少しばかり私は考えた。別に聞かなくてもいい。平林さんに特別興味はないし、ただ面倒臭いってのもある。

 助手席にだらりと凭れて座り、私は窓の外の冬空を見上げた。

 だけど――――――だけど、そう、一つだけ、私は彼に聞きたいことがある。

「・・・じゃあ、いいですか?」

 オッケーが出るとは思わなかったらしく、少々驚いた顔をしてから彼は笑顔になった。

「はいはい、何でも」

 私は一つ深い呼吸をしてから言った。

「平林さんの離婚の原因は何ですか?」

 うっと、隣で彼は詰まった。車が一度左右に揺れて私は悲鳴を出す。

「うわあ、ごめん!すみません、尾崎さん大丈夫!?」

 すぐに車は元に戻ったけど、高速道路でそれは止めてよ~と半泣きしかけた。

「・・・はい、大丈夫です」

 いやあ、焦った~とスピードを落としながら、平林さんは苦笑した。

「ああ、ビックリした。まさかそうくるとは」

「・・・ダメならいいですよ」

「いやいや、何でもいいって言ったの俺ですから」

 平林さんはハンドルを両手で握って座りなおした。それからふう、と息をついて、前を見たままで話し出す。

「端的に言えば、すれ違い、かな」

「・・・すれ違い」

「そう。――――――俺はワークホリックでね」

 平林さんが話しだすのを私は黙って聞いていた。彼は表情を変えずに淡々と話す。もう何度も話しているかのようだった。


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