黒胡椒もお砂糖も
「・・・復縁は無理だったんですか?」
そう聞くと、彼はうんと呟いた。
「別に嫌いになったわけじゃなかったのに?」
「・・・二人とも、また同じことを繰り返すんだろうってのが判ってたから。俺は、本当にこの仕事が好きなんだ。彼女のことは大切にしたかったんだよ。だけど、それと仕事に対する憧れや情熱はまた違う」
今の仕事は天職だと思ってる。また同じように仕事が原因で誰かを不幸にしてしまうなら、俺は一人でいいって、そう思う。
そういう平林さんの横顔を見ていた。・・・この人は、バランスを失ったんだな、そう思った。
高速を降りて下道に入っていく。カーブをゆっくり曲がりながら、彼は続けた。
呟くように、低い声で。
「だから、あいつがいつも一緒に居るんだ」
「はい?」
いきなり何だ?私は瞬きをする。・・・あいつって高田さん?
「結婚してたときから、あいつは俺の仕事のペースに対してブレーキの役割をしてくれていた。飛ばし過ぎだって。もう休んで家に帰って奥さんのそばにいろと。だけど楽しかった俺は、大丈夫だと言っていつも忠告を無視していた」
彼は口元を歪めていびつな笑顔を浮かべる。
「そしたら結果は家庭崩壊だ。・・・・あいつの言う通りにしていれば、離婚はなかったかもしれないと、今でも思う。離婚後またがむしゃらに働いて倒れた俺を、あいつは今度こそ監視することにしたらしい」
――――――監視。目を見開いた私を見て、平林さんはまた苦笑する。