SIX STAR ~偽りのアイドル~
第11章 胸がキューッと
ドラマの撮影は順調に進んでいた。

ドラマの回が進んで行くに連れて、私の出番は少なくなっていた。
相変わらず、あゆに無視し続けられて気が重くなっていたのでそれが救いだった。

でも・・・

「元気がないね」
自分の少しの出番のために、撮影場所の片隅で待っていた私に、同じカットで出番のある先生役の鷹矢が背後から話しかけてきた。

「・・・」
撮影が始まってから、私に話しかけてくる様子がなかったのですっかり油断していた。

「まあ、そう警戒しなくてもいいじゃん。俺は別にとって食わないって」
鷹矢は肩をすくめて見せた。

「気になる?」
「え?」

今のカットは主人公の2人、あゆと龍星が急速に惹かれあっていくような場面だった。

「心配?」

放課後の教室に2人きりで、みんなから恐れられて孤立している不良の純也(龍星)にさくら(あゆ)が健気に何度も一緒にバスケットするように頼む。
教室から出て行こうとする純也の腕をさくらが掴んで・・・という、漫画の場面ではドキドキしながら何度も繰り返して読んだところだ。

それを目の前、それもあの2人がするのを見ると、なぜか胸がキューっとしてきた。

「『やきもち』ともいうかな?」
私は驚いて鷹矢の顔を見つめてしまった。

(やきもち?私が?)
「図星だ。気を付けないとあの子に持ってかれちゃうぞ。まあ、そしたら俺が君をいただいちゃうけど」
鷹矢は私の肩を抱いてきた。

「・・・な、なに言っているですか」
私は目をしばたかせながら、うわずった声でやっと言い返し、
「からかうのはやめてください」
彼の腕を引き離そうとしたが、彼の腕は力強くがっしりと肩に食い込み反対に引き寄せられてしまった。


「カットー」

その時、監督の大きな声が響き渡る。

「だめだめ~。今の場面もう一度!どうしたの?」
「すみません」
龍星の謝る声がした。

鷹矢から逃れようともがいている間に、私が知る限り初めて龍星がNGを出した。

「じゃ、もう一回。今のシーン行きます。立ち位置いいか?」

鷹矢の腕がやっと外れて、ホッとした私の視線に入ったのは龍星がものすごい顔をしてこちらをにらんだ顔だった。



(やきもちって)

鷹矢の言葉が心に引っかかっていた。

物語なのだとわかっていても、画面の中の流星とあゆの2人はまるで恋人たちのように見えた。
美男美女で、とてもお似合いだった。
それに幼馴染なのもあって、ちょっとした息継ぎも互いに分かり合っているように私には見えてきた。

何気ないシーンで、あゆが龍星の背中に触れる。
それだけなのに、胸の奥がキューっと苦しくなって切なくなる。
(私、病気になってしまったのかしら?)

「おい。」
時刻は午前2時を回っていた。
私以外の他のメンバーは先に上がっていた。私だけは時々出番が入ってくるので待機させられ最終まで残されていた。
今日の撮影はこれで終わりだ。
残る撮影は11話と最終話の2回分だった。

スタッフの疲労感もピークのようだった。
出るか出ないか分からない私が残されていたなんて、みんなに忘れられているようだった。

「帰るぞ」
片隅の椅子に膝を抱えて、顔をうずめて座っていた私の頭を軽く叩く。
顔を上げると龍星が私を見下ろしていた。

「・・・うん」
「寝ていたのか?大丈夫か?」
龍星のほうが疲れているはずなのに、彼は私を気遣ってくれている。

「大丈夫」
彼の顔を見ていると、また胸がキューっとして切なくなった。なんだか泣きそうだった。
私は無理して笑おうとして失敗した。

「行くぞ。」
涙を我慢してうつむく私の腕を取り、龍星が先に歩き出した。
着替えもそこそこに(上に羽織るだけで)私たちは撮影所を後にする。
私たちのことを気にしてくれるスタッフはなく、マンションにはタクシーを捕まえて帰ることにした。


今の私はそれがかえってありがたく感じていた。
龍星と2人きりになるのは気まずいけど、今の私はどうしてか、ほんの少しでも側にいたかった。

(タクシーを待つ間だけ)
私は自分に言い聞かせていた。こんなおかしな思考は早く打ち消さなくてはいけない。

「龍星」
そのほんの少しの望みを打ち破る声がする。その声は背後から私たちを呼び止めた。前に歩いていた龍星が振り返る。
私は振り返らなくてもその声が誰のかわかってしまった。

「お願い。少し、少しだけ、話をしたいの」
私は歩みを止めなかった。

気を使ったわけではなく、精神的に目一杯の私は仲良く話を交わす2人の側にいたくなかったからだ。
その場を通り過ぎるように少し早足で2人から離れる。

私が2人から3~4m離れた時だった。

いきなり背後が明るくなった。
カメラのフラッシュがたかれたようだった。

「待て」
振り返ると黒ずくめの男が、走り去って行くのが見えた。

「チッ」
龍星が舌打ちする。

「わ、わたし」
あゆも動揺しているのか、両手で顔を覆っていた。

「仕方ないな。とりあえず、お前はもどったら?」
龍星は冷静だった。

動揺するあゆに付き添うのかと思ったのに、彼はそうしなかった。冷たいほどの冷静な態度だった。
彼はあゆに背を向け振り返ることなく歩き出した。どうしたらいいか分からなかったけど私も慌てて龍星の後をついて行く。
龍星は何もなかったみたいに、タクシーを停めて乗り込み、私もそれに続いた。

タクシーが動き出すと、龍星は携帯を取り出してどこかに電話する。
「はい・・・はい。わかりました。今から戻るんで。明日ですか?明日は12時に入ります。じゃあ、10時に」
「?」

私の顔に疑問符がついているのがわかったのか、
「西野さんに電話しておいた」
「あ、あっそう」
間抜けな返事になってしまった。

龍星が呆れ顔になったあとで、笑い顔になる。
「? あれってやっぱり?」
「写真撮られたかもな」
かもじゃなくて、撮られてますよ。

「大丈夫なのか?」
「さぁ?明日には熱愛とか出たりしてな」
他人ごとのように言うので、私の方が焦ってしまう。

「そ、そんなことになったら?どうするんだよ?」
私はこの前の鷹矢とのことがあったので、気が気じゃなかった。

「だから、西野に電話した。それを処理するのはあいつらの仕事だからな」
思わず、龍星のことをまじまじと見てしまった。
龍星はそんな私を笑みを浮かべて見つめ返すのだった。

「少し歩かないか?」
龍星がタクシーの中で提案したので、私たちはマンションまで少し手前のところまで来てタクシーを降りた。

龍星がいうには、撮影続きで運動不足になっているそうだ。
「でも、明日10時に事務所に寄るんだろ?いいのか?」
タクシーの中の時計を見ると2時半を回っていた。
「大丈夫だ」


私はこのまま帰ってしまうのはなんだかつまらない気がしていたので、黙って彼に続いてタクシーを降りた。
龍星はタクシーを降りると、両手を上げて伸びをして先を歩き出す。
つい数時間前には、切なさに胸を痛めていたのに、今こんな夜中なのに爽やかだ。

「あ~っ」
伸びをする手を下した龍星は、急に叫んで向きを変え振り返った。

「お前、また油断していただろ」
龍星はいつもの口うるさい龍星に戻っていた。

「?」
「あいつには油断するなって言っておいたはずだぞ」
龍星の言う『あいつ』は鷹矢のことだとすぐに分かった。
やっぱりあれを見ていたのだ。

「あれは別に」
「別に、何?」
私が言い訳を探してまごついている間に、龍星はすごく近い隣に並んで歩いていた。

「あれは事故というか」
私の左側。彼は肩があたるほど近くにいて、私を落ち着かない気持ちにした。
「事故?」
左の耳元でささやかれているみたいに、彼の声がする。

「これもか?」
彼の腕が私の肩を包み込みそして、ちょうどあのライブの時鷹矢の唇に触れられた同じ場所にキスをされた。
(え~~!!何?なに今?)

私はエネルギーが切れて、急に直立不動で止まってしまったロボットみたいに固まった。
彼は頬から離れると、大げさに両手を広げて私から一歩前で止まる。

「事故だろ?」
そう、意地悪そうにとぼけた顔をして、私に背を向けて歩いて行ってしまう。

(からかわれた?)
私の心拍はまだいつもの倍以上に打っていた。鷹矢からキスされた時とは全く違う自分にどうしていいのかわからないでいた。
まだ、彼のやさしい唇の感触が残っていた。

「おい。早く来ないと置いていくぞ」
動揺する私なんかお構いなしの彼は、もう5mも離れた前からいつもと変わらない口やかましい龍星で命令してきた。


天にも昇る気分?
昨夜寝る前の私はホワホワしていて、ちゃんと眠ったのかどうなのかわからなかった。
でも、起きてからは全く眠くないし、朝からアドレナリンが放出されているみたいにすっきり目が覚めていた。

でもそのエネルギッシュな目覚めはその時間後には、エネルギー切れで墜落することになった。

「ちょっと聞けや。」
十作が駆け込んできた。

「ああ、龍星のことだね」
謙太は別に驚かないでいう。

「なんや、謙太は知っとるか?」
「いや、もうみんな知っているんじゃないかな?」
「うん。朝、聞いたよ」
「なんや。瑞貴も?」
「はめられたってやつだろ。かわいそ」
哉斗は大げさに肩をすくめて言っていた。

「なに?なに?」
昨夜の余韻で夢心地の私は、それを呑気に質問した。

「あ、恵は知らんのか?俺が教えてやろうか?」
「龍星ちゃんがさ。写真撮られちゃって、それがバッチし出ちゃってもう大変」
「ああ~~!哉斗!先に言うな」
(写真?バッチし??)

何を言っているのかわからなかった。
すると、瑞貴がスポーツ新聞を私に見せてくれた。
(これ!)
表紙の文字は『熱愛』だ。

龍星とあゆが向かい合っている写真が白黒で写っていた。
『熱愛とかいって載ったりしてな』
龍星の言ったことが頭によみがえってきた。

「どうして?だってあれは」
私は完全に夢心地から覚めてしまっていた。
奪うように新聞の内容を読み終えると、メンバーのみんなに昨日は私もいたことを説明した。

「ここちょうど写ってないけど、ここら辺に僕がいて、そしたらフラッシュがたかれて・・・」
「だから、それが嵌められたってこと」
みんなはやけに冷静だ。

「でも、事務所がそんなの処理してくれるんじゃないの?」
私は龍星がとった処理方法を思い返していた。あの時ちゃんと電話で報告していたはずだ。

「まあね。いい時期に『友達なんです』とか言ってみるんじゃないか?話題作りじゃん」
哉斗はやる気のなさそうに普段はふるまっているが、実はかなり頭が切れる。
状況をきちんと把握して分析しているみたいに言う時があるからだ。

私は急に不安になった。
別に正常の男女なのだから、恋愛になってもおかしくない。
当たり前のことなのに、
それに比べて・・・私は・・・
昨夜治ったと思った胸のつかえがまた再発するのだった。

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