SIX STAR ~偽りのアイドル~
第12話 男同士??の恋
放送中のドラマは、龍星たちの報道が出た後、急速に視聴率が上昇する結果になった。

自分が出ていて恥ずかしいのもあるし、ドラマの中の2人(龍星とあゆ)を見たくなくて一度も視聴したことがなかった。

(これ、やきもち?なの?)

鷹矢が前に言ったことが頭の中でグルグル回っていた。

新聞に報道されたあと、まだ龍星と何も話していない。
あの帰り道のこと(キス)で、避けられているのかもしれない。

確かに男同士で頬にキスするなんて、普通はないだろう。
ライブのときの鷹矢の場合は、私が女の子じゃないかって思っていたみたいだし、

でも龍星は?
(男同士がいいの?あり得ないな)
自問自答しているうちに頭がおかしくなってきた。

「なんや、どうしたん?」
今日は歌番組の収録だった。控え室でメイク用のドレッサーに映る自分を見つめていた私に、十作が声をかけてきた。
私は鏡越しに十作の顔を見つめた。

「な・なんや?」
私がジッと見るので、鏡に映った十作は戸惑った顔をした。

「十作はさぁ、やっぱり女の子好きだよね?」
「え?そ・そりゃな」
「でもさ、男でも、例えば瑞貴とか・・・、可愛いとか思う?」

私の頭に浮かんだのは女が見ても、可愛らしい瑞貴の顔だった。
『キスしたいとか思う?』とはさすがに聞けなかった。
私が見るせいなのか、鏡に映る十作の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。

「お・俺は、お・お前の方が・・・その~~可愛いというか・・・」
「?」
十作はますます真っ赤になっていく。

「オイ」
そこに、龍星が十作の頭を押しのけるようにして、鏡の視界に現れた。

「何するんや。」
鏡の向こうで十作が手を出さんばかりに、龍星を睨みつけている。

「ちょっと、十作、やめなよ」
私は振り返って、2人の間に入った。

「出番だぞ」
そんな状況にも、龍星はクールにそう言って私達に背を向けるのだった。

収録中、注目の的はやっぱり龍星だった。
番組の宣伝も兼ねて歌番組の出演になるので、話題も遠回しにその話題を振られる。

彼にはいつも驚かされるが、そんなときは冷静にそして丁寧にあしらう技術を持っていた。
あの報道以来、紙面には2人のことが載ることはなかった。
本当はどうなんだ?
っていうのが、世間の本音なのだろう。


視聴率を押し上げる効果、それぞれの事務所の思惑・・・そんな微妙な注目の中で私たちは歌いそして踊る。
私たちは商品の一つなんだなって思い知らされた。

龍星は歌番組の収録の後一言も話もできないまますぐに、ドラマの撮影のために移動していた。

話は主人公役のあゆが不治の病で入院するあたりを撮影していて、龍星とあゆそしてあゆの母親役の花井恵子の出番が主で私たち他のメンバーの出番はもうほとんどない。

私たち他のメンバーは、歌の収録の後は歌と踊りのレッスンや個人的にモデルみたいな雑誌の撮影などが入っている。

龍星を除いたメンバーは次の日から、毎号の各アイドル雑誌の撮影が詰まっていた。
話題性のある私たちグループはそういった雑誌にかかせない存在に今はなっている。その中で龍星のは後撮りをして載せられる。

今日も夜11時頃やっと長い一日が終わり、私はマンションに戻った。
でも、やっぱり龍星の部屋の電気はついてはいなかった。

(今週くらいで撮影は終わるんだよね。)

最終シーンのあたりで私たちメンバーもまた出番が少しあるので、撮影が残ってる。
それが明後日くらいに予定されていた。


(明後日には龍星に会えるかな?)
最終シーンは、亡くなってしまった主人公あゆの気持ちを胸に、チームメンバーが大会に臨むというとこで終わる。

あれからまともに顔を合わせていないので、なんだか寂しいというか切ないような気分だったからなんだか嬉しくなった。
私はしばらく龍星の部屋の前に佇んでいた。

「何しているんだ。」
私は急に後ろから声をかけられて、もう少しで飛び上がってしまいそうになった。近づいてくる気配に全く気が付かなかった。
振り返ったそこには、疲れ切った顔をした龍星が立っていた。


いつでも彼はきちんとしていて、今日も夜遅いが服装や身なりは朝であるかのようなのに、顔色だけが妙に悪かった。
私は無意識に彼に近づいて、背の丈の差から少し見上げるように彼の顔を見た。

「大丈夫?」
熱を測るときのように、龍星のおでこに手を当てようとした私に、彼は崩れ落ちるように覆いかぶさってくる。

「りゅ・りゅうせい」
私は彼の体を支えるのに必死になった。体重差からしても、もし今彼が気を失ったら女の私の力では支えきれない。

「おい。龍星!しっかりしろ!」
私が怒鳴るので、顔をしかめながら龍星はなんとか踏みとどまってくれた。

「大丈夫だ。」
押しのけるようにして私から離れると、ポケットの中からようやく鍵を探し出してドアへよろめきながら歩いて行った。

「貸せよ。」
龍星から鍵を取り上げると、彼の体を支えつつ鍵をひねってドアを開ける。

龍星の体はまるで湯たんぽのように熱く、近くにある顔からかかる息は荒い。
部屋は違うが、間取りは左右差はあるものの同じつくりになっている。

支えるのが手一杯なので、暗がりの中で龍星を腕を抱えながら奥へ進み、ようやくベッドの上に乱暴だけど一緒に転がり込んだ。
そのころには龍星は完全に意識を失っていた。


私は息も絶え絶えながら、柔道の技をかえすみたいに彼の体を押しやるとベッドからはい出した。
息を整えた後、部屋の電気を手探りで点ける。乱れたベッドの上に仰向けに気を失った龍星の体があった。
後から考えればどうしてこのとき誰かに応援を頼まなかったのかと後悔しけど、それからの私はもう必死でとにかく、彼を看病しなくちゃっと思っていた。

勝手に彼の部屋のものを見回し探り、水分補給・とりあえず熱を下げて・汗をかくようなら着替えを・・・考え着く限りのケアをし続けた。

氷水に浸したタオルを何度も絞り、彼の額に乗せ続けているうちに辺りはうっすらと明るくなってきた。
汗をすごく掻いていた龍星の体をタオルで拭き、そしてなんとか着替えさせたところで、私も限界だった。そこまでの記憶だけで、力尽きて意識を失っていた。 

「けい・・・恵・・」
なんだか今一番聞きたい声がした気がする。

「恵。」
誰かが私の頭をやさしく撫でてくれていた。夢じゃない??

「お前まで風邪ひくぞ。起きろ」
自分の意識が戻ってきた。
私はどうもうつぶせに寝てしまっていたみたいだ。
ゆっくり顔を上げると、目の前には龍星の度アップの顔がある。


「りゅうせい?」
思考回路が固まって、なんで龍星が目の前にいるのかわからなかった。

思考が結びついてきたところで、私は思わず飛び跳ねるように立ち上がってしまった。

でも、それがまずかった・・・

私は龍星の看病をしながら、ベッドサイドに正座した状態でもたれ掛って寝ていたから足がしびれてまったく感覚がないような状態だったのだ。

「わあ~~」
叫び声と一緒に龍星の体の上にダイブしてしまっていた。

「ご・ごめん」
謝るけど足がしびれて感覚がなく動かないし、なんともできない。

寝ている病人の龍星に抱き着くような形になってしまった。
恥ずかしいし、ドキドキして仕方がない。

私は今は男なのだから、男が男に抱き着かれて気持ち悪くないはずがない。

焦りながら動く腕でなんとか彼の体から降りようともがいていたが、今度は反対に龍星の腕が伸びてきて私の体を両手で抱きしめてきた。

「お、おい。」
これではベッドの上で抱きしめられているような感じだ。

(な・何するのよ)
心の中では女に完全戻って悲鳴を上げていた。
抱きしめられたそのままの体制で、顔を上げると、これがまたちょうど目の前に彼の顔が・・・


「責任とれよ。」
目の前の龍星は病み明けで、いつもと違いうるんだような色気のある顔で意味深なことを口走る。
そして、私の唇に自分の唇を重ねてきた。

驚きにまぬけなほど目を見開いた私だったが、彼の唇がやさしく私の唇の輪郭をたどりそのあと熱く求めてきたところで目を閉じてされるままになっていた。

どのくらいそうしていたかわからなかった。頭の芯がしびれてくるような、産まれて初めての感覚にすっかり慄いていた。
私から離れ際に、龍星の唇はまた、やさしく輪郭をたどって離れていった。


「ちゃんと、嫁にもらってくれよ」
そう、龍星は冗談を言って、口角を上げて微笑むのだった。

(どうしよう)
今日がオフ日で本当によかったと、私は心の底から思った。


自分の部屋に駆け込んで戻って、シャワーも浴びないでベッドに潜り込んだ。
体は鉛のように重く疲れきっているのに、頭の芯が冴えてしまっていた。

(キスしてしまった)
産まれて初めてのキスは、私を男だと思っている人だ。
それでも、心のどこかで龍星でよかったと思ってしまう自分に驚いた。
今まで男はもちろん女にも、特定の人を好きになった経験なんかない。

(これを好きというのかしら?)
何度も何度もまだ熱を帯びている唇の感触を思い出してしまった。

(次に顔を合わせたとき、私はどうしたらいいのかしら?)
そんなことを考えていると、どこかで携帯が鳴っているのが聞こえた。

私は部屋のどこへ隠してしまったのかわからなくなっていたのを、急いで探しだして電話に出た。

電話の相手は意外な人だった。

「恵君?」
電話の相手は一方的に話し始めた。

「私、わかっちゃったの」
相手は名前を名乗らない。それでもそれがあゆだとすぐにわかった。

「あなたのひみつ」
あゆはそこで言葉を切る。


私は何も言葉を出せないでいた。頭の中真っ白になっていた。
「バラされたくなければ、今すぐメンバーを辞退して」
「な・・」

自信満々の言いように、私はまだ言い返せない。あゆが言っていることの真意が掴めていないからだ。
「龍星だって、きっと迷惑しているはずよ。だって」
「だって?」

私はその理由が聞きたくて、勿体つけながらいう彼女の言葉を復唱し先を促す。
(私が女だってことに気が付いたんだ、きっと。どうしよう。どうしよう)
不安に胸が押しつぶされそうだった。女だってばれたら、もうメンバーではいられなくなる。龍星のそばにいられなくなる。

私の言葉が足りないせいでイライラするのか、電話の向こうの声はだんだんと機嫌が悪くなっていた。
「あなた、龍星のことが好きなんでしょ。気持ちが悪いわ。男のくせに」
最後にはヒステリックにそう叫ぶように言い切ると、電話を乱暴に切ってしまった。


「え?す・すきって?おとこのくせに?」
私は切れてしまった電話に向かってそうつぶやくのだった。

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