SIX STAR ~偽りのアイドル~
第5章 「ファースト・キス」
デビューコンサート後、私達の日常はデビュー前なんて問題にならないほど忙しさが倍増していた。

街の至る所に『SiX Star』のポスターが張られて、街頭のモニタースクリーンにはデビュー曲のPVが繰り返し流されていた。

毎日のようにTV番組に出演し、ミニコンサートやCM出演など日付が分からなくなるほどの忙しさだった。

その中で私だけが違う意味でいつも緊張し、神経をすり減らしていた。

(こんなに露出度が高いと、絶対バレるよ。)

昨日、西野に文句を言ってみたが、取り合ってもらえなかった。
あのコンサート後気絶した騒動で、もしかしたらメンバーにばれちゃっているんじゃないかと私は思っている。

特にあの人には・・・

「大丈夫だとは思うのだけど・・・」

曖昧にほほ笑んで雪野は自信なげに首を傾ける。

この人がしっかりしてくれないと私はどうすればいいんだろう??


このくそ忙しい日程の中、今日はメンバー全員が事務所に呼ばれていた。

会議室にそれぞれ腰掛けて、西野が来るのを待っていた。
いつものように私の隣には瑞貴がいる。

十作と謙太とはいつものペアリングで残りの二人は離れて座っている。

デビュー前に感じた龍星とメンバーの仲が縮まりつつあったのに、ここのところまた開いているような気がした。

龍星もメンバーとあまり話をしなくなったし、私なんかとは一切目も合わさない。

あの時私を部屋まで連れて行ってくれたのは龍星で、熱を出して気を失っていて自分が何かしたのかもしれないけど、恐くて聞けない。

「なんか悩みでもあるの?」

瑞貴が心配して話しかけてくる。

「なんや?どうしたんや?」

十作も前の席から参加しようとしてくる。
仲がいいのか?お節介なのか?どうか私の事はほかっておいて欲しい。

そんな私を助けるように、西野が他のメンバーを連れて部屋に入って来た。

「みんな揃っているな。じゃあ、これから今度の新曲及び新曲PV撮影について説明する。横田、やってくれ。」

入って来てそうそう、西野は本題に入り言う事だけ言って、歌など担当している横田と言う少し頭の禿げている中年の男にバトンタッチした。

横田は、PCを使い次の新曲のデモテープを流した。
それと当時に曲の歌詞も画面に映し出される。

曲の題名は
「ファースト・キス」
いかにもアイドル的なベタなものだった。

メンバーもそこには全員うんざりという雰囲気がその場に流れていたが、流れてくる曲を聞いて誰もが黙った。

今度の曲はバラードだった。
デビューしたばかりだったから、アップテンポの曲でガンガンいくのかと思えていたが意外な感じだった。

曲が終わると、横田はPV完成までの期日を事務的に私たちに伝えた。
今度のPVは個人撮りがメインで最後のサビでメンバー全員が初めて出るという。

「最後に、これはボス(西野)からの指示だが、個人撮りのところは個人個人で考えるように。テーマは曲タイトルのとおり『キス』だ。思い思い自分のものを出してほしい。以上」
「え~~」
「なんで?」
「キスだって?」

各々が文句を言う。

「黙れ!お前らだってキスくらいしたことあるだろ?デビューしたばかりでも、お前らはプロなんだからな。人に見せられるものを1週間以内に考えてこい」

西野が吠える。それにメンバーは黙り込んだ。

(ど・どうしよう)

私は絶句してしまった。キスなんて・・・漫画やドラマの中でしか見た事がない。
経験どころか自分の周りでも、そんな経験を聞いた事もなかった。

「まぁ、そう難しく考えんでもええんちゃうか?PV何秒の世界やろ」

いつも楽観的で前向きの十作は明るい。

「俺、演出にちょっと興味あるし、楽しみかも」

謙太も余裕だった。
周りを見渡して、焦っているのは私1人だけみたいだった。

「若干一名。ヤバいのがいるな。お前チームなんだから助け合いだぞ」

西野は私が悩んでいるのをわかっていて、そんな捨て台詞を吐いて出て行くのだった。
持ち時間は1人頭20秒だった。
その中で『キス』に纏わる演出の個性を出さなくてはいけない。

「雪野さん。キスしたことある?」

撮影の間に雪野とたまたま2人になった。

「え?」

雪野の顔は真っ赤になっていた。

(あるなこれは・・・)
「お願い。そのときのことでいいから、ヒント頂戴」
「わ・私なんて、だ・駄目ですよ」

声を裏返らせながら、目を白黒させて慌てふためいていた。

「何している?」

そこへ撮影から戻ってきた龍星が話しかけてきた。
最近、避けられ続けていたので、声掛けられたのは意外だった。
でも、今はそんなこと構っていられない。

「龍星はどうする?PV」

さすがに龍星に『キス』したことがあるのか聞けなかった。

「あ、ああ。とりあえず2・3案がある」
「あるの?そんなに?」
「教えないからな」

龍星に即答された。

「そこをなんとか。お願いします」

私は拝むように手を合わせ、捨てられた猫のような目ですがりつく。

「分かった。分かった」

龍星は諦めたという顔でそう言うと、腕を組みメイク用の椅子にドッカリ座りこんだ。

「俺が相手役やる。一緒に考えてやるから、お前なりにやってみろ」

やってみろと言われても・・・
私は全想像力を結集してみた。出てきたのはこの前、西野に呼び出された時のことだった。
座っている私に手を伸ばして来て・・・

あの時の再現みたいに、私は龍星に手を伸ばした。
そして、顎に手をかけるところを想像した途端、顔に火がついたように真っ赤になってしゃがみ込んだ。

(だ、駄目だ。出来っこない)

龍星の雷が落ちるのを、身を固くして待っていたがその気配はいつまでたってもなかった。
そうっと薄目を開けると、ブツブツ何か言っている龍星がいた。

「お前の場合、ガキだからな。設定はまあ、ベタに放課後の教室だな。交代、ここに座れ。」

龍星はブツブツ言った後に、私の腕を掴んで自分が今まで座っていた椅子に座らせた。

「2人残った教室に夕日でも差し込んで」

真面目な顔で場面設定をしていく。

「座っている彼女に、こうして」

私の体を挟むようにして、龍星はメイク用の机に両手を着いた。

「カメラは後ろからで、徐々に顔を近付ける。こんな感じ」

龍星が上から私を見下ろしながら、顔を近付けてきた。
顔と顔が間近に近づいたとき、龍星もあまりの近さに気付いて息を呑んだ。

「2人でなにやってるの?」

そのタイミングで残りのメンバーが、メイク室に戻ってきてしまった。
2人と言っても、室内には雪野もいる。龍星はさっと視線を外し、私から遠ざかる。

「れ・練習を」

雪野のフォローはフォローになっていない。
瑞貴は龍星が身を引いた後に、私に駆け寄って来た。顔がいつもと違いマジになっている。

「怒られていたわけじゃなくて、その・・・教えてもらっていたと言うか・・・PVのヒントをもらっていたの」

雪野のことを非難することは到底できない。気が付いたらなんだかちょっと女言葉になってしまっていた。

「僕に相談してくれてもいいのに」

瑞貴はさっきの真剣な表情からいつもの可愛らしいキャラに戻っていた。
でも、私までの距離はさっきの龍星と変わらないほど近づいている。

「じゃあさあ、俺で練習する? 俺はどっち(男でも女でも)かまわないけど」
哉斗は人差し指を自分の唇に触れて、そのまま私へ投げキッスを送って来る。

「け・結構です。」
「まあまあ、それくらいにしておいたら」

最後は謙太の助け舟だ。でも、いつもとなんだか違っていた。

「なあ、十作。」

謙太がそう十作へ言うが、十作は部屋にはいいたその場所で固まったまま動かない。
表情もピクリとも動かない。

「あれ??」

目を開けたまま気を失う様に動かない十作に、みんなの呆れた視線が一斉に集まるのだった。



『ファースト・キス』のPVの撮影は、企画が通ったものから始まった。

企画に合うタイプのモデルさんを相手に、個性的な映像ができあがっていた。
その中で、私のはといえば…

『中学生かなんかの世界か?』

と散々バカにされつつ、なんとか撮り終えた。
できあがったPVは、自分たちが言うのもなんだけど、サイコーのできたった。

さすがプロと私は感心した。

でも、自分が出ているところは恥ずかしくて、ちゃんとまだ見れていない。
西野は出来上がりを腕を組んで見て、『まあまあだな。』と褒めもせずけなすこともせずコメントして帰って行った。

スタッフはそれをGOサインとして、PV完成とし、これからデビュー曲のようにバンバン売りこむつもりだった。

(ああ~~これが、世間に出ると思うと恥ずかしい)

モデルの女の子にも呆れられるほどのNGを出しまくって仕上げた、私のカットはほとんど使用されてないのが唯一の救いだ。

他のメンバーのカットは、普通の女子なら気を失いかねないような悩殺ものだった。

十作は青春系、謙太は爽やか系、瑞貴はかわいい系、哉斗はセクシー系でそして、龍星は大人な感じにまとまっていた。

私は特に龍星のカットに、なぜか胸がざわめく。
男装をして女であることを偽っているのに、実家にいたころよりも、気持ちが女子化しているような感じだ。

家では親はほとんど家にいないし、大きくなるにつれ兄達とも関わりがなくなって来ていた。いわゆる戦隊ヒーローオタクで、引きこもりの一歩手前だったような私だ。

このメンバーでいると、いつも私はフォローされていて、甘やかされている気になる。
自分が自分でなくなるような気がして、それがいいのか悪いのか・・・よくわからなくなっていた。

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