SIX STAR ~偽りのアイドル~
第7章 タイガーZ登場
「SIX STAR」のデビューは、私が思っていたよりも反響が大きく、なんだかどんどんと普段どおりの生活が難しくなってきた。
今では少し買い物に行っても、振り返られたり時には話しかけられたりもする。

芸能人が帽子をかぶったりするのをTVで見ていたが、自分たちもだんだんと同じ感じになっている。

(このままじゃ、コンビニでの少女漫画の立ち読みが出来なくなるな)

そんな低レベルな危惧を感じていた時、私達の仕事に新たなジャンルの物が追加された。

今までは歌番組しかTVには出ていなかったが、今度はバラエティーに参加する仕事がきた。
一番喜んだのは十作で、嫌がったのは珍しく意見が一致した龍星と哉斗だった。

「今度の仕事は、あなた達の先輩にあたる事務所の先輩の看板番組だから、粗相のないようにお願いしますね。」

雪野が心配そうに告げた。
事務所にはたくさんの先輩たちがいる。でも、自分たちはオーディションでデビューする形を事務所初で行ったメンバーだったので、先輩達とは今までほとんど関わりがなかった。

「どんな番組に出るのですか?」

謙太が素直に聞く。

「うんとね。9時からやっている、『サンダーズ・TIME』って言う番組なんだけど」
「サンダーズの!」

みんなは互いに顔を見合うとか浮足立った感じだったが、私はなんのことか理解できない。

「恵くん。知らないみたい」

いらんことに瑞貴が私を見ていて、からかう。

「え~~。しらんの?ありえへんやん」

でも知らないものは仕方がない。

「俺もしらん」

別にフォローしたわけじゃないだろうけど、龍星がもいう。

みんなが口ぐちに教えてくれることを整理すると、その番組はゲストを招いてゲームをしたり、ゲストチームとレギュラーチームで料理対決をするとかいう番組らしい。
それで負ければ、罰ゲームをするとか・・・

聞いた途端、テンションが下がった。
アドリブのきかない私はこういったのは困ってしまうから・・・



『サンダーズ・TIME』の収録は昼から夜にかけて行われる。
サンダーズは今一番人気のある男性グループらしい。

平均年齢27歳の大人のグループで、番組もかなり長く放送されているらしかったが、私はなぜか一度も見た事がない。

(戦隊ビデオしか見ていなかったからな)

今更ながら見ておけばよかったと後悔した。
体も動かすし料理もするという事で、今回の衣装は好感のもてるようにとジーンズとパーカーやシャツだった。

控室まで来てから、みんなが寄ってたかって、先輩達の顔写真を私に見せながら彼らについての説明をしてくれた。

番組は見ていなくても、彼らの歌とかは巷に流れていたからうたおうと思えば何とか歌える。
みんながそれにホッと胸をなでおろした時、

「この人!!」

顔と名前をを覚える為に真剣に顔写真を見ていた私は思わず叫んでしまった。

「な・なんや?」

十作が大袈裟に驚く。関西人は何をするにもオーバーリアクションだ。
でも、今は私の方がそれ以上だった。

「この人、ケントだ」

思わず役の名前で叫んでしまった。
ケントというのは、3~4年前に1年間やっていた、特撮ヒーローものの主人公の役の名前だった。
あれは確か・・・

「タイガーZ」

前髪を長くした黒髪で、まなざしの鋭さを前髪で隠している感じが滅茶苦茶かっこよかった。
変身前のアクションも完璧で、身のこなしが流れるようだった。

「ああ、僕も見たことがある。あの時アイドルがやるっていってみんな見ていたもんね」

瑞貴も思い出して言う。

こんなところで会えるなんて・・・

始めてこのメンバーに入って、感激できた。

「浮かれんじゃない」

そこでビシッと龍星の鉄拳が飛ぶ。

「そうだよ。俺は気にいらんな。この仕事俺、やる気ない」

今回の仕事に限っては、龍星と哉斗は意見が合うようだった。哉斗が必要以上に私に抱きついてくる。

「ケイはさあ、無防備だからさ気をつけなきゃね。俺が守ってあげようか?」

冗談とも本気だとも思えるけど、あのやる気のない感じは健在だ。

「何言っているんだよ。ただ、ちょっと感動しただけだよ。いいじゃないか。ほかっとけ」

私は無理とそっけなく言ったが、内心はドキドキしっぱなしだった。
龍星がそれを見つつため息をついたなんて、そのときは気が付かなかった。



収録前に、後輩の私達は先輩にあいさつをしに、楽屋に向かった。
さすが人気者には、自分達とは比べようもないほどのスタッフが彼らを囲んでいた。

(あの人がリーダーのシュウさんで隣が勇気さん。京也さんが髪の長い人。背の高い人が寛太さん。)

さっき覚えたばかりの人を、復習してみた。
その中で、みんなと距離を置いて、スタッフと談笑しているのがあの『タイガーZ』のケント。

鷹矢さんだった。
ケントのときとは違って、前髪は短くおでこが見えている。

「SiX STARのリーダー龍星です。よろしくお願いします」

雪野さんが彼らに挨拶した後に、龍星が頭を下げた。龍星に続いて私達もそれぞれ名乗って頭をさげる。

「やぁ、よろしくね」

フレンドリーに明るくリーダーのシュウが寄ってきたが、他のメンバーはチラッとこっちを見ただけで反応はなかった。

シュウは私達と1人ずつ握手をすると、笑顔でもとの打ち合わせに戻っていった。

(優しい人だな)

もっとお高い感じなのかと思っていたから、ちょっと安心したが、私の憧れの人は、私達がいる間、全くこっちを見もしなかった。
収録は前半はゲームで後半料理対決で長時間になった。

挨拶のときには関心を示さなかったシュウさん以外のメンバーも、本番ではプロらしく私達をもてなしてくれた。
最初から組まれていたのか、私はなんと鷹矢とペアリングにされていた。

ゲームなどで対決させられたりした。鷹矢は他の誰よりも動きが身軽で華麗に見えた。
そして、ゲームやトークの時に何気にやさしく私をサポートしてくれている。

私はドキドキしっぱなしだった。

あの憧れの『ケント』がすぐ傍にいるのだ、緊張しないはずがない。
そんな夢のような収録は料理対決を前にいったん休憩に入った。

私はまだ余韻を引きずっていて、ポーッとしたまま控室へ行く。歩いている間もフワフワ雲の上を歩いているみたいだった。

「ねえ、恵くん」

休憩室に戻ってもぼんやりしている私に、瑞貴が心配そうに話しかけて来た。

「なに?」

自然にニコニコして返事をしてしまう。

「恵くんは警戒心がなさ過ぎ」

いつも穏やかな瑞貴がなんだか棘のある言い方をする。

「けいかいしん?」
「さっきの収録さあ、狙われちゃってる感じする」
「ねらわれてるって?」

何を言っているのかわからないで、周りを見るとみんなの顔がいつもと違って険しい。怒っているみたいだ。

「なんか、僕ミスした?」

収録中なにか失敗でもしたのだろうかと思い、気がつがない自分に焦った。
ミスをしていたのなら、鷹矢さんに申し訳ないし・・・

「ちゃうわ。あいつ、恵にばっかりくっついとった。キモ悪いわ。きいつけいや」

十作も心配顔だ。
みんなの言うあいつと言うのは?

「鷹矢。あいつ、恵のこと気にいったみいたいだ。油断できん」

哉斗も変な事を言う。

「ちょ・ちょっとまってよ。だって僕は、お・男で鷹矢さんも・・・」
「この世界は、性別関係無いんだよ。気をつけるに越したことはないよ」

いつも冷静な謙太まで深刻な顔だった。

「だって、僕よりどう考えても瑞貴の方がかわいいし。みんなの方がかっこいいだろ。僕なんか普通だよ。ありえんよ」
「分かっていないのは、おまえだけやわ」

十作がそう言ったとき、番組スタッフが収録再開のため呼びに来た。
みんなが私を囲んで訳の分からないことを言っている間、龍星はただ黙っていた。

「行くぞ」

言葉短くみんなに言うが、どこか機嫌が悪そうだった。

「まあ、俺ンらにまかせておき。なんとかしたるで」
「そうだね。僕はできるだけ恵くんの隣にいるよ」
「俺も」
「うん」

なぜかみんなが私を覗いて意気投合しているのだった。

料理対決はサンダーズと私たちがそれぞれテーマを決めて料理を作り、会場観客が甲乙を決めて勝敗を決めるようになっていた。

今日のテーマは和食だった。
サンダーズは毎回の収録で手慣れた様子で料理をしあげていた。

私達はまったくの素人だったので、手際が悪い。
始めは女だとばれるのを恐れて手を出さなかった私も、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。

両親ともに家にほとんどいなかったおかげで、料理は兄と交代でやっていたからある程度のものは作れた。
今日のテーマは特に自信があった。

メニューは煮魚と筑前煮と揚げだし豆腐を作る。
10分我慢したが、気が付いたら収録関係なく、私が指示しながら料理をつくりあげてしまっていた。

スタジオを円形に半分ずつ使って、互いのチームが料理を仕上げていった。
最後の盛り付けになる。

サンダーズは肉じゃが・天ぷら・酢のものを彩りよくアレンジして豪華にしあげてきていた。
彼らがほぼ完成していたので、私達も慌てて盛り付けに入った。

盛りつけはほとんど私が担当し、白の陶磁器に盛りつけて一品ずつ運ぼうとした。
私はそれに集中していて、その他に無防備になっていた。

急に何かにエプロンの端を引っ張られた感じがして、アッと思った時には2段ほどの階段の途中だった。
背後に誰かの気配がする。
私は料理を落とさないように必死だった。

(駄目だ~~)

目を閉じて諦めかけたその時、体の横から誰かの腕が私を支えてくれた。力強く。

「大丈夫か?」

私の体を支えた力強い腕は、龍星のものだった。

「ごめん。すべった」

小声で私は謝った。収録中だ。なんとかしのがなければいけなかった。

「大丈夫だった?恵くん」

私の背後には、やさしい笑みを浮かべた鷹矢が立っていた。

「は・はい」
「大丈夫なんで」

私が鷹矢に返そうとしていた言葉を、横から流星が続けて言い、私の肩を掴むと引き離すように遠ざかっていった。

「お前は・・・」

彼から距離を置く所まできて龍星は顔を伏せてため息をつき、小さくぼやくのだった。

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