臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
「珍しい」

ポツリと聞こえてきた言葉に首を傾げた。

珍しい……って、何が?

「お前が真正面から、俺の顔を見てくるの」

そう言いながら、社長は苦笑する。

「俺は怯えさせたか?」

……主語のない言葉は、何を意味しているのか深すぎて困るんだけど。

「えー……と?」

「悪かった。そんなつもりは無かったんだ」

そんなつもりで連想できるのは、この間、押し倒された関連についてかな?

「俺も強引に迫られて引いたんだから、女のお前ならもっと怖かったよな?」

社長は少し視線を外すから、私も視線を落とすと、ちょっとだけ彼の指先がもじもじしているのに気がついた。

表情は無だけど、バツが悪そうにしているってことはだろうか。


……いや。怖くはなかった、のだけれども。

だけど、そのお陰であなたに惹かれてしまっている気持ちに気がついたんだろうと思う。

「……あの」

「もうしない。だから、露骨に避けないで欲しい」

なんとも可愛い“ごめんなさい”だなぁ。

うん。やっぱり社長には色々とバレバレだったらしい。
でも、今の対応を変えるつもりも無いんだけど。

「そろそろ、ベッタリしなくてもいいような気がするんです」

「そろそろ?」

「ええ。祝賀会も乗り切りましたし、そもそもそれが目的のカモフラージュでしたよね? それに、もう少しすれば野村さんが復帰なさるでしょうし」

社長は考えるようにして虚空に視線を彷徨わせ、それから私を見た。
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