臨時社長秘書は今日も巻き込まれてます!
うん。もうここ半月くらいで色んなことがあるわけで、私も少し慣れてきたつもりはいた訳なんだけど。

「あれは忘れられない。『お気持ちは嬉しいですが、今は誰とも付き合うつもりはないので』と言うのは、ハッキリとした断り文句だよな?」

「まぁ……『お前なんか嫌いだ』よりは柔らかいですが」

「しかし意図は伝わるだろう? それなのに『では、明日であればよろしくていらっしゃるの? ホテルの部屋を取っているので一晩いかが?』とか言われた俺の身にもなれ」

それは無理だ。無理だけど気持ちはわからないでもない。

今がダメなら、明日ならどうだ! とは普通ならない。

常識的にならないはず。でも惚れたはれたは常識外のお話だし。

なんて言うかさ……。

「少し寒気が……」

腕を擦ると、社長がそうだろう、とでも言わんばかりに頷いた。

「さすがの俺も、被っていた猫をかなぐり捨てて野村のところまで走ったな。とりあえず急な腹痛で帰ろうとしたら『お部屋で休んでいかれませんか?』とまで聞かれたし……」

「……猫被るんですか?」

「被るぞ。さすがの俺も、親しくない人間にまでこんな口調で話さないし」

「あれ。私は親しい人認定されてるんですね」

「お前ね。三ヶ月も近くにいる予定で始終猫被るつもりなら、最初からいつもみたいに澄ました顔してるぞ?」

「でも、秘書課にはバレたような気がしますが。私と言い争ってるし」

「誰のせいだ誰の」
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