Bitter Chocolate
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あの日から要からの連絡は来なくなった。

ヒカリは惠佑と穏やかな日々を過ごしていたが
要のことを考えない日は一日も無かった。

「ヒカリ…今夜のライブ、来るよな?」

「うん。麗子も楽しみにしてるから。」

「麗子さんはヒロと順調?」

「うん。まぁね。」

麗子は連日ヒロとのことを報告してくる。

幸せそうな麗子を見てるとヒカリも幸せな気分になった。

もちろんヒカリも幸せじゃないワケじゃない。

惠佑はカッコいいし、優しいし…非の打ち所のない男だった。

なのにヒカリの心はいつも満たされなかった。

「元気ないね?」

ヒカリを見ていた麗子がそう呟いた。

「え?そう?そんなこと無いけど…」

「まだ忘れてないの?…要さんのこと。」

「まさか…そんなワケじゃないじゃない!
そうじゃないよ。…絶対違うから。」

麗子にはヒカリがまだ要に未練があると言っているようにしか聞こえなかった。

「ヒカリは正直じゃないからなぁ…」

その言葉にヒカリはなぜか少し凹んだ。

「本当に違うから!」

違ってない。

会わなければ会わないほど要が恋しかった。

「惠佑くん…いい人だよね?」

「うん。」

「でも…刺激が足りない?
要さんみたいにドキドキしない?」

「そんなことないよ。
素敵だし…ドキドキもする。」

実際惠佑にドキドキさせられることは何度もあった。

でも要とは何かが違うのだ。

身を滅ぼすような命懸けの恋は
要以外とは考えられなかった。

あんな風にはもうなりたくないけど…
あんなに誰かを思うことももう無いような気がした。

ライブが始まって惠佑がステージに立つと
惠佑は輝くほど眩しかった。

みんなの視線を一斉に浴びて歌ってる惠佑は
いつものヒカリの前にいる惠佑とは別人だった。

「惠佑くん、ホントにカッコいいよね!」

麗子が音に掻き消されないように大きな声でそう言った。

「うん…カッコいいよね。」

惠佑は歌ってる間も何度もヒカリに視線を送った。

回りの女の子たちに比べてヒカリのテンションがそんなに高くないことを惠佑も気がついていた。

ヒカリに向かって投げキスをして
アピールして見せてもヒカリはうわの空だった。

ライブが終わり、ヒカリの元に汗で濡れた身体のまま惠佑がやって来た。

「どうだった?」

「すごく素敵だった。」

笑顔でそう言ったヒカリに惠佑は少し安心する。

「向かいのカフェで待ってて。
シャワー浴びてくるから。」

「うん。」

麗子とカフェで待っていたが
ヒロが先に麗子を迎えに来て帰っていった。

ヒカリは一人でカフェラテを飲んで惠佑を待っていた。

すると後ろの入り口から男が話しながら店に入ってくるのがわかった。

「あそこのショコラ食べました?」

チョコレートをショコラって言う人はなかなかいない。

ヒカリはショコラと言う言葉に敏感だったし
しかも男がスイーツの話をしながら入ってくるのも珍しい。

ヒカリはその男の顔を見てみたいと思った。

振り向いた瞬間、衝撃を受けた。

ショコラと言った男が一生懸命話していた相手が要だったからだ。

「ここのホットチョコレートも絶品ですよ。
…要さん?聞いてます?」

要もヒカリに気がついてヒカリを見ていた。

「ちょっと悪い。」

要は一緒に入った男の席を離れヒカリに近づいて来た。

「一人か?」

「待ち合わせ。」

「あの男か…?」

「うん。」

要はヒカリの髪や胸元や指などに視線を落として
なかなか目を合わさない。

ヒカリと見つめあったらどうなるかわからないからだ。

「要さんは?」

要と呼ばれて居たのに突然"さん"付けになって
ヒカリとの間に距離を感じた。

「あぁ、後輩とちょっとね。
チョコレート熱が熱いヤツで色々勉強しに来るんだ。」

要と話してると惠佑がやって来た。

「ヒカリ、遅くなってごめ…」

要の顔を見た瞬間、惠佑は凍りついた。








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