Bitter Chocolate
7
ヒカリは動けなくなった。

だけど…すぐに正気を取り戻した。

要から何とか逃げると要の頬を叩いた。

「止めてよ。」

「ヒカリ…俺のモノになれ。」

「夫は後輩でしょ?
そんな簡単に裏切れるの?」

「簡単に裏切ったのはお前だろ?」

ヒカリは何も言えなくなった。

あの日、衝動的に要と浮気してしまったのは自分だったから。

「お願い。もう忘れたいの。」

ヒカリはそういうと武志のいる寝室に入ってしまった。

要は仕方なくヒカリの家を出た。

店に戻ると店の裏口に可南子が立っていた。

「やっぱり諦めきれなくて…」

可南子が要に抱きついてきた。

「そんなに俺が好きなの?」

「うん。」

要は可南子にキスをした。


ヒカリは武志の寝顔を見ていた。

「ごめんね。武志…もう二度とあんなことしないから。」

そう言って武志の頬にキスをする。

武志は何も知らずに気持ち良さそうに寝てて
ヒカリはその顔を見て申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

それでも要にキスされた感触がまだ唇に残っていて
ヒカリの胸は熱いままだ。

武志しか見てこなかったヒカリはどうしていいかわからなかった。

その夜遅く要から連絡が来た。

「武志は大丈夫?」

「はい。」

「俺、可南子と付き合うから。」

「え?」

「そうした方がいいんだよな?」

「…うん。」

ヒカリは要を忘れることにした。

所詮、浮気なのだ。

そう思って全てを忘れることにして
ヒカリはそれから一度もチョコレートショップには行かなかった。

可南子からたびたび要の話を聞いたけど
ヒカリは要が幸せになってくれればいいと思った。

しばらくして武志に転勤の話が持ち上がった。

「四月に転勤だって。」

「どこに?」

「仙台。」

「ヒカリ…どうする?
一緒に来るか?」

「うん。」

そのつもりだったけど…
その時近くに住むヒカリの父親が病に倒れた。

ヒカリは仙台行きを止めて
武志は単身仙台に行くことになった。

ヒカリはなるべく父親のお見舞いに行った。

母から聞いた話に寄ると
ヒカリの父親の容態は思ったより深刻だった。

残された時間をなるべく父親と一緒に過ごそうと思って、
ヒカリは病院に毎日通った。

父親の前では明るく振る舞ってるけど
精神的にはボロボロで
そばに武志も居なくて
ヒカリは父を失う悲しみに押し潰されそうだった。

そんなとき病院で偶然要にあった。

要は松葉杖をついていた。

「どうしたの?」

「自転車で転んで脚を痛めて。
幸い折れてなくて大したことも無いんだけど…

ヒカリは?」

「うん、父が入院してて。」

「そっか。大変だな。」

「帰るの?アタシも帰りだから送ってこうか?」

「助かった。」

ヒカリは一人になりたくなかった。

こんなとき、要といるのは危ないけど…
今は誰かにそばにいてほしかった。

ヒカリは要を自分の車に乗せた。
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