君が扉を開く時
2.残された鍵
 まったく華ときたら、よっぽど疲れていたと見えて、オレに抱き抱えられて2階まで上がり、オレのベッドに寝かされても、起きる気配すら無い。目を覚ましたら、話もしたかったし、ま、それなりに甘い行為に溺れたい気もしてたけど、これじゃそんな気も失せた。いい加減、オレも夜遅くまで仕事だったから眠くて、結果、特に何もせず隣りにもぐり込んで寝てしまった。



 「ん…。」

 何だか妙に身体が熱くて目が覚めた。すると、いつの間にかはだけられたオレの素肌をなぞる細い指の感触にゾクゾクした。

 「華、何…。」

 オレの言葉をそこで奪って、重ねられる唇。華の赤い舌がオレの下唇をペロペロ舐める。くすぐったくて思わず緩んだ唇からその舌が差し込まれて、オレの舌に絡んでくる。そこでオレは堪らなくなって、今度は自分から深いキスを仕掛ける。それに応える華。あっという間にリミットを越えて、お互いの身体を繋ぐべく、邪魔な布を脱がせ合う。そこで、今日はやけに積極的な華が上になったままオレにしがみついてくる。十分潤っている事が伝わるその腰を引き寄せて、オレの方に誘ってやると、うまくオレを受け入れてくれた。

 「あ、んっ!」

 繋がった瞬間に漏れる甘い声がオレの耳を刺激し、背中がのけぞることで、白いのどと形のキレイな胸がオレの視線を捉える。いつもと違うその視界に、オレの身体の熱がまた一段と上がり、思いっきり攻めたくなって、身体を入れ替えようとすると、華がイヤイヤをする。

 「今夜は…アタシが、ソンハを思うとおりにするの。大人しくされてなさいよ。」

 マゾっ気なんてないオレだけど、華のその言葉に身体がザワザワした。すると、華の両手がオレの胸に置かれ、敏感な部分を刺激し出す。

 「くっ!…」

 思わずオレから声が漏れる。それに気を良くした華がより執拗にそこへの刺激を繰り返す。身体の中にどんどん熱が溜まって行く感じがした。徐々にその溜まって行く熱でオレは苦しくなってきて、その熱を逃すために、もっと自分から動きたいのに、上になった華がそれをさせてくれない。

 「はぁはぁ…。」

 それならと、荒い息を吐いて少しでも逃そうとするのに、今度は、華の唇がそれを塞いで、それすらもできなくなる。体中に満ちた熱が行き場を失って、中からどんどんオレを壊そうとする。すがるような気持ちで、華の白い腕にギュッと掴まると、それが合図になったように、華は胸への刺激を止め、代わりに繋がった部分の動きを激しくした。熱に侵されたオレは何が何だかわからなくなって、ただ華にされるがままだ。

 そして、行き場を失っていた熱が急に出口を見つけたように、頭と腰の2か所に向けて一斉にわーっと流れていって、一瞬バンっと弾けたかと思うと、オレの頭は真っ白になり、小さな叫び声を上げ、腰にズンっと重みを感じて動けなくなった。と、ほぼ同 時に上になってい た華の身体が小さな叫びと一緒に思いっきりのけ反って、次にぐったりとオレの上に倒れ込んできた。二人とも息が荒くて、なかなかそれが収まらない。オレの身体も華の身体もしっとりと汗ばんで、まるでお互いの熱で溶かし合ったかのようだ。



 ようやくその荒い息が収まった頃。今度は汗ではないもので、オレの胸が濡れていくのを感じた。…華が泣いているんだ。

 「華、どうした?何で泣いてる?」
 「…なんで、ソンハと出会っちゃったの?アタシ、もうここにはいられないのに…。なのに、こんなに…。」

 泣きながら、切れ切れに言葉を吐き出す華。けど、訳がわからない。いられない?ここって東京?でも、華はソウルで仕事なんじゃ?

…それに、ここにいられないのはオレの方だ。オレ達は、日本で年度が変わる3月末をもって、日本の事務所をたたんで元の事務所に戻り、改めて韓国を本拠地にすることに決まったんだ。

 それが本決まりになったのは、本当にここ数日のことで、オレ自身もまだきちんと消化しきれていないところだった。だから、華にもまだ伝えていないのだが。

 結局華はそのまま泣き寝入りしてしまい、泣いた理由も聞きそびれ、オレの話もしそびれたままになってしまった。



 そして、迎えた朝。起きた時にはもう華の姿はなく、オレが渡した合い鍵だけがぽつんとサイドテーブルの上に置いてあった。何のメッセージも添えられていないそれを見つけた時、ざっくりと胸を切り開かれたような気がした。

 ムダとはわかっていたが、メールやLINEで連絡してみたものの、案の定はじかれて連絡が取れない。公私混同を好まない華だから、きっと嫌がるのもわかっていながら、勤務しているはずのソウルの会社に連絡を取ってみたけれど、そこも既に退職していた。


 これで、もうオレから華に連絡が取れる方法はなくなった。オレは華に完全に切られたんだ。そうわかった途端、急に部屋が歪んで見えた。真っ直ぐ立っていられなくて、その場にしゃがみ込む。胸が苦しくて、息もうまくできない。今日がオフでよかった…そう思いながら、オレは意識を手放した。



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