私、今から詐欺師になります
 


 追いますっておかしいだろうが。

 乗せられるな、この莫迦がっ、と穂積は切れた携帯を見つめる。

 やがて、溜息をついて、携帯を投げた。

 会社がフロアの上下にあるんじゃなくて、家ならよかった、と思いながら。

 携帯越しに聞こえてくる二人のやりとりは、何処か楽しそうに聞こえていた。

 いや、茅野は必死そうだったのだが。

 秀行は、結構楽しんでるんだろうな、と思うとムカつく。

 秀行が茅野を手放そうとしないのもわかる気がする。

 一家に一人、茅野が居たら、刺激のある日々を送れそうだ。

 毎日、なにかやらかしてそうだからな。

 携帯を切った自分の部屋は、しんとしていた。

 いつもは気にならないこの静けさが、今の茂野家の騒々しい声を聞いたあとだと、なんだか物悲しく感じられる。

 会社に戻れば、茅野の住所もわかるが。

 ……茅野が俺に助けに来て欲しいと思っているかはわからないしな。
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