私、今から詐欺師になります
 



「人がいいね、おにいちゃん」
と社長室で、穂積は玲に罵られていた。

「なんだかんだで、茂野の言う通りに動かされてるじゃん」

 なにがおにいちゃんだ。

 お前、さっき、どさくさ紛れに、あんたとか言ってただろ、と思っていると、玲は言う。

「やっぱり、ごちゃごちゃ考えるおにいちゃんと茅野ちゃんじゃ、話は進まないよね。
 僕が考える間もなく奪ってあげないと」

 じゃあねー、と出て行ってしまう。

 あっ、こらっ、待てっ、と思ったが、すぐに茅野がやってきた。

 言っていた通り、こちらを見ずに、
「今日も一日ありがとうございました」
と挨拶してくる。

 どんな無礼な社員だ……。

「茅野、ほら」
と封筒を渡そうとすると、

「いえ、今日はほとんど働いてませんから」
と固辞する。

「もらっておけ、茅野」
と声がした。

 何故か秀行が後ろに立っている。

「別にその日の給金というわけじゃなくて、月の稼ぎを日割りで割ってるだけじゃないのか。
 明日、馬車馬のように働けばいい。

 ……って、なんで、俺も見ないっ」
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