私、今から詐欺師になります
 


「茅野?」

 茅野はすりガラスに寄りかかって沈黙している。

 秀行は、風呂から出て、そうっと扉を開けた。

 茅野の身体がこちらに向かい、倒れ込んでくる。

 慌てて濡れた手で背中を押さえた。

 その手だけを支えに、髪が濡れた床につきそうなくらい身体が反り返っても、茅野は目を覚まさない。

「……爆睡だな」

 慣れない仕事で疲れているのだろう。

 だが、眠る茅野は何処か満足げだ。

 その寝顔をちょっと可愛いと思いながらも、額を指で弾いてやる。

「結婚詐欺をしてくるんじゃなかったのか、茅野」

 詐欺して楽に稼ぐんじゃなくて、時給幾らかでこき使われてくるとは。

 まあ、その抜けた感じも茅野らしくていいか、と笑った秀行は茅野を壁に寄りかからせると、服を着たあと、抱き上げる。

『三年経ったら離婚してくれるって言ったじゃないですかっ』

 そう自分に訴えてきた茅野を思い出す。
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