サガシモノ
時間を戻す
月子が消えて、あたりは静かになっていた。


あれだけ一生懸命探していたものが、すぐ目の前にあったかもしれないなんて……。


そう思うと、なんだかその場から動く事ができなかった。


あの柱時計の中に……。


そう思った瞬間、水原先生が柱時計に向けて走り出していた。


「おっと、そうはさせないからな」


水原先生の大きな体を簡単にねじ伏せて、五十嵐孝はそう言った。


「ここまで来てまだ腕時計に手を出そうとするなんて、先生失格ですよ」


陽が床に倒れ込んだ水原先生を見下ろして、呆れたように言った。


そして柱時計に近づいていく。


透明な扉に手をかけて、ゆっくりと開いた。


「……あった」


中を覗き込み、陽は一言そう言った。


床に膝をつき、手を入れて中から宝石箱を取り出した。


その宝石箱は埃が被り、あちこち劣化していてひび割れている。


長い間ここにあって、誰にも気づかれることのなかった宝石箱。


陽はそれを床に置いて大きく息を吸い込んだ。


どうか、この中に腕時計がありますように。


今日で、すべてが終わりますように。


そんな願いを込めているようにも見えた。
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