私に恋してくれますか?
ホテルを出ると、車寄せに父の使う大きな黒塗りの車が停まっていた。
「雛子さん、お元気でしたか?」と父の運転手の三好さんがドアを押さえながら
私の顔を見て、微笑む。

「ご心配をかけています。」と私はちょっと笑って頭を下げ、父の車に乗り込んだ。

水城さんは助手席に座ると、
「社長の血圧を上げるなんて、
雛子さんも大人になられましたね。」と少し砕けた口調で笑ってみせる。

「すみません。」と少し、肩をすくめると、

「五十嵐 透さんは北欧でデザインを勉強していて物を見る目があった。
学生の頃から、彼の選ぶ家具はstormで大変人気があったそうです。
社長である彼の父は経営を勉強して来た兄のスグルさんではなく、
トオルさんを後継者にと次第に考えるようになったようです。

スグルさんははstormを継ぐためにずっと育てられて来ました。
彼も期待に応えるために努力して来たようです。
トオルさんは兄のブレーンになるつもりで、帰国しstormに入社したのに、
自分が兄を差し置いて跡を継げと言われたのが
苦しかったようです。
家を出て、家族とはそれきりになりました。

兄弟を心配した祖母がトオルさんを支援して、
influenceを立ち上げたそうです。
やはり、彼の選ぶものモノは人気がありますね。

お祖母様は息子夫婦仲が良くなかったので、孫を家に呼んで面倒をよく見ていたそうです。」と水城さんは静かな声で私に教えてくれた。

…だから、子どもの時あの兄弟に何度か会っていたんだ。

トオルくんのことが少し分かった。



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