私に恋してくれますか?
家族で揃ってお通夜の長い列に並ぶ。

stormの会社社長の母親の葬儀は、
やはり、大袈裟にしなくてもたくさんの人が集まっていた。


親族の席の末席にトオルくんが肩を落として座っていた。

皆が黙礼してから、お焼香をする。
私は写真の笑顔を見て、涙が流れた。

トオルくんが好きだったおばあちゃんに会いたかった。
今は、お互いに恋人だって思っているだけだけど、
いつかお線香をあげさせてもらいたい。
そう思って会場になっている自宅を後にする。


立派な門をくぐって帰ろうと思った時に
走って来たトオルくんが私の手を掴んだ。

私は少し驚いたけど、トオルくんを見上げる。

「少しだけ、雛子さんといさせてください。」とトオルくんは父の顔を見る。
父が不機嫌な顔でうなずくと、門の陰に私を連れて行き固く抱きしめて低く嗚咽した。
私はトオルくんの頬に触れ、一緒に泣いた。

行き交う焼香の人が、私達に少しだけ目を止めるけど、通り過ぎていく。

見られても構わない。
今はトオルくんのそばにいたい。

スグルくんの姿が見えたと思ったけれど、すぐに立ち去って行ったみたいだった。

少し経つとトオルくんは落ち着いて、
「ピーコ、ありがとう。」と照れたように少し微笑んで戻って行った。


足早に門を出ると、みんな待っていた。
父は不機嫌そうだったけれど、
母は少し微笑んで、私の頬を撫でた。

「まだ、付き合ってるんだ。」と姉が顔を覗く。
「別れていません。」と小さな声で言い返した。
< 147 / 191 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop