私に恋してくれますか?
「あの、五十嵐の次男はどうなってる。
あんな人目のあるところで、雛子を抱きしめて!
雛子は嫁入り前だぞ!」と父はリビングをうろうろし、大声を出した。

私はさっきから怒られているみたいだ。

「でもさあ、お父様がふたりを好きに会わせておけば
あんなところで抱き合ったりしなかったんじゃないの?」
と姉は笑いながらコーヒーを飲んでいる。

「それとこれとは、話が違う!」と父はオカンムリだ。

「すみませんでした。でも、あの時、トオルさんを抱きしめることが出来て
私はよかったです。」と私が小さな声で言うと、

父は口を聞けずに私を睨んだ。

「雛子。強くなったわね。
お父様に刃向かうなんて」とクスクス姉が笑う。

「笑い事じゃありませんよ。
俺の縁談は風前の灯火って感じだよね。」と足立先生もクスクス笑った。


先生、笑ってていいの?
と私も可笑しくなってくすんと笑った。

「雛子。笑わないで。」と母も笑顔を見せる。

なんだか怒ってるのは父だけみたいだ。

「家族の問題を解決するって宿題が済んだら、
そろそろ認めないといけないかな。」と兄も少し笑った声を出す。

「如月まで何を言っている!」と父はまた、怒鳴ったけれど、

「トオルは雛子を愛してるよ。」と兄は父に微笑みかけた。

父が怒ってリビングを出て行こうとしたところに

「五十嵐 透様が雛子さんに会いたいといらしています。」と静子さんが声をかける。

「取り次がなくていい!」と父が怒った声を出す。

そうよねえ。
今はタイミングが悪すぎる。

と私はくすんと笑って、リビングの窓を開け放す。

12月の寒い風が吹き込んでくる。

「雛子は何をしてる?!」と父は私の顔を見る。

きっときこえてくるはず。

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