もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

 瞼を下ろし、どくん、と跳ねた胸の鼓動を感じとる。忘れてしまわないように。また、思い出せるように、と。


「さあ、夏帆ちゃんは、次になにを聞かせてくれるのかなー」

 お兄さんは、何かおやつでも待っている子供のように瞳を輝かせている。

「ええ。ええっと……何を話したらいいかな」

 話をしてほしいと言われても、具体的なお題のようなものを無しに話すのはなかなか難しい。

 何を話したら喜んでくれるのか、と考えているとお兄さんが口を開いた。

「そうだな。例えば、好きな食べ物……は、オムライスだったね。うーん、夏帆について知らないこと。そうだなぁ」

 何を知らないかなぁ、とお兄さんが呟く。しばらく考え込んだお兄さんは「そうだ」と言って何か思いついたような顔をした。

「夏帆の描いた、あの絵。あの絵に込めた意味を教えて欲しい」

「え?」

「この、表紙になってる絵。あれを見たとき、どうしてか涙が出た。死人なのに、まるで生きてるみたいに、ぼろぼろ涙を流して泣いたんだ。うまく言葉にできないけど、とっても素敵な絵だと思った」

 少し前、お兄さんに返した本。大切そうにその本をいつも手に持っているお兄さんは、ブックカバーを外すと、その表紙に優しく触れた。

「これは、今年の夏描いた、コンクールに出すための絵。だけど、コンクールに出すためじゃなくなった。ただ、自分の気持ちを表現した。そういう絵。本当はね、ここにある雲はなかったの。だけど、私とお兄さんの未来を知ったとき、頭より先に指先が動いた。気づいたらここに筆を置いてて、雲ができた。厚い雲だけど、微かに太陽が存在しているような、そんな気がするでしょ? 太陽を探し続けている向日葵。これを書いたときの私の気持ちがそのまま表現されてる」

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