もう二度と昇らない太陽を探す向日葵

「誕生日プレゼント。明後日でしょ? それに、未来でもあげられなかったから」

 確か、お兄さんが命を絶ってしまったのは、2021年8月29日と書かれていた。ちょうど5年後の今日。私の誕生日の2日前にお兄さんは命を絶ってしまったんだ。

「……ありがとう。嬉しい」

 髪につけられた向日葵。私は、それを優しく右手で触れた。撫でるように触れた後、ふと視界に入った時計台。もう少しで、私は学校に行かなければならない時間だった。

「そろそろ、か」

 お兄さんがそう呟く。私は、溢れ出てきそうな涙をぎゅっと瞼を閉じて堪える。そして、ふぅ、と大きく深呼吸をして口角を上げた。

「お兄さん、私、そろそろ行くね」

 私から、そう言った。

 昨日は、あれだけ離れたくないとお兄さんを困らせた私だったけれど、最後は、やっぱり笑顔で終わりたい。

 そして、また、笑顔で未来を歩き始めるんだ。

「うん。分かった」

 お兄さんが、ゆっくり口角を上げた。だけど、少しだけ目が赤い。

 私は、お兄さんの赤い目に気づかないふりをして笑顔を作り続けた。私の向かいに立つお兄さんも、瞳を潤ませて笑っている。

 きっと、二人とも考えていることは同じだ。

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