もう二度と昇らない太陽を探す向日葵
「お兄さん、ちょっと真っ直ぐ私の方向いてください」
「ん、はい」
大体の長さに切った前髪を揃えていくため、お兄さんに真っ直ぐ前を向くよう指示をした。
瞼あたりまでの長さになったお兄さんの前髪。そのすぐ下にある瞳と突然に目が合い、私のハサミを持つ手の動きは一瞬止まってしまった。
────ドクン、ドクン。
右手でハサミを持ち、反対の左手では、お兄さんの前髪と額の間に指を入れている。そんな私のすぐ目の前にあるお兄さんの瞳のせいで、不覚にも私の胸は高鳴り始めた。
目の前で見る彼の瞳は、あまりにも綺麗で、直視するのは今の私には難しすぎる。
「引き続き、切ります」
私は、お兄さんの瞳から避けるように視線を動かした。
縦にハサミを入れて、毛先を整える。目と目が合わないようにと動かしているはずの視線。それなのに、ふとした瞬間に何度かお兄さんと目が合ってしまった。その度に、私は不自然に目を逸らし、熱くなる顔を左手で仰ぎ冷やそうとした。
「出来ました!」
5分ほどで切り終えたお兄さんの前髪は、瞼くらいの長さになり、さっきまでとはまるで違う印象になった。
切れ長の形をしているお兄さんの瞳は、やはり、綺麗で澄んでいる。切れ長なのに、全体的に柔らかな印象を持ってしまうのは、お兄さんの内側の性格や雰囲気から来るものなのだろうか。
「お兄さん、こっちの方がかっこいい」
私の一言に、お兄さんが目を丸くした。恥ずかしそうに瞼を下ろしながら「ありがとう」と言った彼の頬はほんのり赤みがかかっている。
ああ、どうしてだろう。
どうしてなのか不思議で仕方がない。だけど、私、もっとこの人のことを知りたい。
私は、ふと、強くそう思った。
私は、昨日、初めてこの人と出会ったはず。それなのに。
「お兄さん、明日も、明後日も、また会えるよね?」
私は、まだまだ知らないことだらけのはずのこのお兄さんに、信じられないほどのスピードで惹かれ始めていた───。